♪開花する瞬間のお話
園長: すぎもと かずひさ
園庭を眺める。 新しい土を入れた、いかにも茶色いその場所に子どもが数人群がって穴を掘っている。柔らかいので思うようにほれるのだ。どんどん落とし穴やミニチュアの町になっていく。
砂場では山づくりが宴たけなわだ。無茶なトンネルをつくろうとしてはせっかくの山を崩し、あれこれ言い合いながら、またつくり直している。そばには、プリンカップや缶でかたどられた砂がケーキと称され葉っぱやお花で飾られている。 花壇やなかよし号の裏手のフェンス沿いではありさんやダンゴむしたちがかわいい手の犠牲になって、どんぶりや砂場用の四角いおもちゃの中に閉じ込められている。サーチライトのような子どもの瞳は、水も漏らさぬ高性能だ。
ところが、こんなに楽しい光景とは裏腹にぽっかり空いたスペースがあった。子どもたちの興味を惹くものがないのであろう。さっそく、つるはしを引っ張り出して穴を掘りはじめる。ひとり、ふたりよってくる。固い地面のひび割れた大きな固まりをわれ先に奪い合う。
おおっ!わたしは驚いた!他の子を押しのけ固まりを取らんとする輪の中に、普段おっとり気味の彼がいた。予想もできないたくましさと俊敏さで固まりを奪い合っている。興味が花開かせる瞬間である。彼は、おっとりの向こう側で開花する力を充分に育んでいたらしい。 思わず、にんまりしてしまう。