♪小さな旅のお話

♪小さな旅のお話

園長: すぎもと かずひさ

 お泊り保育が終わった。無事終わった。おわりのあいさつのとき、こんな意味合いのことを言った。

 「かわいい子には旅をさせよ、という言葉があります。たった一晩だけれど、お泊り保育はみんなにとって小さな旅行です。お父さんもお母さんも先生たちもみんなのことがかわいいからお泊り保育をしているのですよ。たくさんのおともだちと一緒にいるとわがままは通りません。みんなにはわがままではなく、一緒に考え合う人間にそだってほしい。それから、いろんなことを経験すると大きくなります。みんな、もっといろんなことして大きくなろうね。」

 「かわいい子には旅をさせよ」大人に向けられた言葉である。かわいいから抱っこしたい。いつまでも手元においておきたい。まだ小さいから。ファザー・コンでもいい、等々。ところがこのような思いで過ごす日常が、生活のいろいろな場面で顔をのぞかせ、ときに『かわいい子に旅をさせない』相互依存的人間関係をつくってしまう。

 大人が手を出したいとき、手を引っ込めることが子どもの体験チャンスになる。転んで自分で立ち上がること、泣いても痛みの消えないこと、気分転換は自分でしてこそ本当に気分のかわること。ご飯をこぼしたら自分で後始末すること、上手な後始末の方法を知ること、きれいにする心地良さを味わうことは豊かな情操を育むこと。自分のほしいものは自分で取りに行くこと、取れなければ我慢すること、取る工夫をすることは創造力を育てること。自立心を養う小さな旅はどこにでもある。

 ひとりで歩くとき、ともに歩くとき。ひとりで生きる経験が、また、人と協調する大切さを教えてくれる。子どもが旅をするとき、おとなも旅をする。

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