♪彼は謳ったのお話
園長: すぎもと かずひさ
ふと、湧いてくる情景がある。それは卒園式であった。年長児が一年の保育体験を歌詞にした『思い出のアルバム』を合唱するシーンのことである。当時、年長組には聾唖のきょうだいが在籍していた。途中入園であったかれらは、当初、コミュニケーションの不自由さから、ともだち間でのトラブルも少なくなかったが、日を追うにつれ、ともだちとのやりとりを深めながらみるみる意思の疎通を可能にしていった。 そして卒園式当日―、クライマックスを迎えしーんと静まり返った会場にピアノ伴奏がはじまった。リズムにあわせて身体を揺らし、一斉に謳い始める子どもたち。成長の一場面一場面が走馬灯のように蘇る中、順に一人ひとりの顔を眺める。その一角にきょうだいは並んでいた。聴力と発声に不自由さを抱えているはずのかれらは、見事に、自然に、声なき声を張り上げ謳っていた。からだの困難な状況や自由、不自由といった概念などどこにもなく、ただ一体となったこども集団の姿があった。 「子どもたちを想う共感から感動へ」と冒頭のあいさつで述べた今年の「童心のつどい(生活発表会)」とそれまでの道のり。子どもたちが保育園でともに過ごしてきた年月の大きさと、かく語りながらも未だ理解し得ない予想をはるかに上回る子ども集団の力に毎年ながら驚かされる。子どもたちが棲んでいる小さな世界からイメージの世界を探検した3,4歳児さん。実体験と想像の世界を融合し、自分たちで台詞を考え、表情豊かに表現あそびを楽しんだ5歳児さん。 一年以上も前に菌打ちをしたホダ木から立派な椎茸が生えてくること。自分たちで育てたトマトが暑い夏にのどを潤してくれたこと。プールや汚れた川では決して見ることができないタイコウチと遊んだこと。誰が掘ったのかあまりの大きさにビックリした猪の穴でお風呂ごっこをしたこと。目をらんらんと輝かせながら拾い集めた木の実を使ってクリスマスツリーを作ったこと。いくつもの体験をともにしたからこその世界がある。 彼は謳った。元気いっぱいに謳った。みんなとこころ合わせて謳った。