♪大きな木のお話

♪大きな木のお話

園長: すぎもと かずひさ

 大きな木を手に入れた。卒園児のお父さんのお陰である。幹が空洞になった木を子どものままごとのおうちにでもどうぞ、とのうれしい申し出である。さっそく、その木を見せてもらいに材木屋さんに連れて行ってもらった。「あれです」と彼の指差すほうを見ると、材木倉庫入り口付近の軒下にその木はたたずんでいた。直径1メートルもあろうかというほどの大木で、見た瞬間にそこで遊ぶ子どもらの姿を思い浮かべ思わず歓声が出る。ところが、さらなる驚きが待ち受けていた。な、な、なんとその木のうしろに、目を疑わんばかりの巨木がそびえておったのだ。幹には生命感あふれるこぶがいくつも隆起し、なんとも言いがたい気を放っている。直径2メートルに迫らんとする東北産の栃の木であった。幹の周りは5メートル以上にもなる。国産でこれほどの巨木は珍しいらしく、お店の方の話ではかつて図書館のオブジェとして卸したことがあるくらいとのことであった。 さて、この木を保育園にお迎えすることにした。ひと目見ただけで、誰しも、驚き、喜び、触わらずにはいられない新たなシンボルの登場である。子どもたちにとっては、笑い場になったり、泣き場になったり、苦楽をともにする格好の場となるであろうし、おとなたちにとっても、ホッと一息ついたり、自然への思いを募らせたりなど、日頃のストレス解消やアウトドアへいざなうきっかけくらいにはなるかもしれない。自然界にはこんな大きな木がある。そのことを日常的に体験する子どもたちが描く夢はどんなであろう。大空に枝をなびかせるようのびやかに人生を歩んでくれればいいな。少々のことがあっても大地に根を張るように、風雪に耐える幹のようにたくましく育ってくれればいいな。百年にも満たない一人ひとりの命が千年もの齢を重ねる大樹のようにやさしく紡がれればいいな。何れにしても、幼き日のよき思い出の糧となれば光栄である。感動の声が聞こえる。 

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