♪「心の葉」のお話

♪「心の葉」のお話

園長: すぎもと かずひさ

Aちゃんのちっちゃな手。その手がギュッとリュックの肩ひもを握りつぶして離すことができない。Aちゃんの心はもちろんお母さんに向いている。こんな子どもの泣きを引き受け続けて25年目の春を迎えた。入園当初から卒園するまでいろんな顔を見せる子どもたち。そんな一人ひとりを丸ごと引き受けるのがわたしたちの仕事であり、生きがいでもある。子どもの泣き声を耳にするたびに胸がキュンとするわたしの胸囲はいつのまにか100cmを超えてしまった。

 さてさて、Aちゃん。まさに自分はここにいるよ、と言わんばかりの叫びである。この見上げたエネルギーのそばにより、不安いっぱいのAちゃんに言葉をかける。言葉の「言」は「心」を意味する。つまり、わたしの心の一葉をAちゃんにふりかけるわけである。「元気やな。大きな声は元気の証拠や。」と褒め称えると「えっ」というようなAちゃんの顔。泣いているのに褒められるなんてと言いたげなきょとんとした顔が愛らしい。「先生はAちゃんのお母さんとおともだちなんやで。」とAちゃんが大好きなお母さんはわたしの中にもいるよと心の葉をもう一枚重ねていく。「お父さんともお祖母ちゃんともお祖父ちゃんともおともだちやで。Aちゃんかわいいから、みんな大好きやって言ってはったわ。先生もAちゃんのこと大好き。」心の葉がAちゃんを包んで行く。
 しばらくして抱っこのAちゃんが地面に降りた。さあ、Aちゃんの旅の始まりだ。

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