♪「子どもの伝説を守る」のおはなし

♪「子どもの伝説を守る」のおはなし

園長: すぎもと かずひさ

 2歳児クラスの女の子がさら粉をつくっている。さら粉とは粒子の細かい砂のことである。さわるとさらさらなのでさら粉と呼ばれるようになった。子どもにとっては自分の魂のこもった貴重品であり、つくれること自体がステータス・シンボルでもある。さて、前出の女の子。右手に持った平皿で砂をすくい巧みに左右に傾けている。そうすると重力の加減で大きな粒子の砂だけが皿からこぼれ落ち、きめの細かい砂が残るという寸法だ。傾けすぎると細かな砂までこぼれ落ちてしまうので微妙に傾きを調節しながら根気よく繰り返す。砂はどんどん細かになって、彼女の満足に到達するとできあがり。さら粉は左手の茶碗に移しかえられ、蓄えられていく。  

 蓄えられたさら粉は泥団子の表面にまぶされたりままごと料理の装飾や調味料になったりする。この子ども世界の豊かなひろがりと子どもならではのひたむきな心情こそはわたしたち大人がわすれてはならない、いつまでも大切にしていきたいことではないだろうか。
 
 
 年上の子から「上手にできたね~」と認められる喜び。 ともだちと分け合ったり交換し合ったりしながら遊ぶうれしさ。せっかくつくった大切な砂を横取りされる悲しみ。大人に片付けといわれても離したくないためらいと反発。大人の目を盗んでひそかに隠すスリル。それぞれの場面に自分を懸けたものだけが体験する、人生の機微がある。
 
 この女の子はどのようにしてさら粉をつくれるようになったのだろうか。ささやかな保育園の園庭にあそび継がれてゆく子どもの世界。ひとりの子どもだけでは到底成すことができない豊かな世界とその成り立ちを想う。子どもたちの歴史と伝説が大勢でやってくる。守ってやるぞ、と大人みんなで手を振ろう。

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