「夢の雑巾」のお話
園長: すぎもと かずひさ
保育園の園庭での一場面。
さわやかな青空とまばゆい光に誘われて数名の2歳児さんが水場で戯れている。そのうちの一人の男の子が蛇口に向かっていった。小さな手が蛇口をひねる。指の間にはティッシュが覗いている。水をしこたま含み込んだティッシュは「おそうじ、おそうじ・・・」という可愛いつぶやきを声援に雑巾に変身する。小さな手は水場のコンクリートや木の幹をつぎつぎと濡らしては、上に下に動いていく。日頃のお母さんの仕草が再現されて穏やかな生活風景が見えるようだ。
突然、そこにある保育士がやってきた。「ゴミ箱にポイしよか」大きな手につかまれた手首の先に茶色くしぼんだティッシュが見える。笑顔の保育士は自分の言動が善意に満ちているがゆえに気づかない。「ちょっとまって!プレイバック!プレイバック!いまのことば!プレイバック!プレイバック!!(このフレーズをご存知?昭和のアイドル山口百恵さんの歌の歌詞です、はい!)」ギターのリフもびっくり~、どこ見て歩いてんだよ~。眉毛もせりあがるっちゅうねん。すぐさま保育士をたしなめる。「こどもの行動の前後をよく見ような、このティッシュはゴミなんかじゃないで、こころもピカピカになる夢の雑巾や。」
ティッシュはゴミであるという先入観と瞬間の判断がこどもごころを台無しにするところであった。こどもを思いやるはじめの一歩はこどもたち一人ひとりの行動を丁寧に見守ることである。こどもの何気ない行動は何気ないのではなく、ときにかけがえのない意味を持つ。
危うく命拾いをした茶色いティッシュは喜び勇んで蛇口へ走る。ともだちのうらやましそうな視線を浴びて新たな仕事にお出かけだ。