「わたし」と「わたしたち」のお話
園長: すぎもと かずひさ
「わたし」は「わたしたち」から生まれる。
胎児の時から始まる母との出会い。
身近な人から社会へと広がる数々の出会い。
一つひとつの出会いが人生を彩ってゆく。
保育園は子どもにとって初めての社会生活である。
入園当初、後ろ髪をひかれる思いで見送った我が子がいつしか喜んで保育園に通うようになり、やがて、大人たちを寂しくさせるほどに大きく育ってゆく。
子どもは個性の塊である。
個性はその子らしさの根本であり、かけがえのない人間性そのものだ。
ままごとあそびで晩酌さながらに乾杯する子どもがいると思えば、そのそばで「飲みすぎんときや」とたしなめる子どもがいる。
親や身近な人の真似をして育つ子どもたち。
表情を真似る、仕草を真似る、口調を真似る。まさに、大人の有り様を映す鏡である。
そんな大人の個性をも引き連れてやってきた子どもたちが、偶然に出会い、ともに笑い、ともに泣き、ときにぶつかり合いながら、いっぱいの感動を共有し、理屈を超えてわかり合う体験をするところに保育園生活の妙味がある。
いとも自然に「わたし=個性」と「わたし=個性」を溶け合わせ、「わたしたち=仲間」をつくりゆく子どもたち。
こんなにも自然に「わたしたち」がつくられてゆく世界が大人社会にあるだろうか。
「わたし」自身の幸せも大切だけれど、「わたしたち」の幸せの方が、なお素晴らしいことを身をもって悟る原体験である。
さて、この幼児期特有の関係性の発達をあたたかく、おおらかに見守り、応援しつづけることが、今、大人の側に求められている。
それには、大人自身が「わたし」の我が子のみならず、我が子といっしょに豊かな「わたしたち」を形成している「一人ひとり=すべて」の子どもを「わたし」の我が子と同じように大切に思い、尊重し、慈しむことである。
大切な「わたし」と「わたしたち」、「わたし」を大切にすることは「わたしたち」を大切にすることであり、「わたしたち」を大切にすることは「わたし」を大切にすることである。
あたたかい関わりを喜び、共感してもらう嬉しさを味わう。
あたたかな出会いから始まるあたたかな人間関係の中で一人ひとり=すべての子どもたちのこころに「わたし」も「わたしたち」も好き、だから「人間が大好き」という灯をともす。
「わたし」と「わたしたち」を豊かに育む子どもたちの生活が始まる。