『チューリップと三輪車のお話』
園長: すぎもと かずひさ
チューリップの「心の旅」という大好きな歌がある。私の十八番であり、 「あ~だから今夜だけは~君を抱いていたい~」と歌い出すと、いつしか仲間で合唱になる名曲である。
その昔、テレビのインタビューで作詞・作曲者である財津和夫さんがチューリップというバンド名の由来について尋ねられている場面があった。財津氏曰く「子どもが一番最初に絵に描き親しむ花がチューリップだから」とのことであった。他の由来も仰ったのかもしれないが、さすがは創造を生業とするアーティストのお言葉として、「創造の根源は子ども心」と考えていた私の心に鮮明に残り、やがて、木幡分園を命名するときの参考にさせてもらうことになる。
木幡分園の名称は「さんりん舎」という。文字通り「三輪車」である。三つの輪は、保育園のロゴになっている「情・動・知」の三つの太陽、「親・子・孫」の三世代、「地域・家庭・保育園(学校)」の三つの連携、「時間・空間・仲間」の子育ちの三間を指してはいるが、その背景には「子どもが人生の初期に最も親しむ乗り物」の意味があり、それはチューリップのバンド名の由来と共通する「子ども心」に他ならない。
「子ども心」こそは、現代の大人が守らなくてはいけない最も大切なものである。なぜか。
ひとつは、好奇心である。子どもの好奇心は本来尽きることがない。好奇心の赴くままに活動し運動感覚を養いながら、まっすぐに身の回りの身近なひとやものやことへ関わり、さまざまな学習体験につなげていく。好奇心は生きる原動力であり、子どもの能力の最も優れた点であるにもかかわらず、日本の子どもは意欲・向上心が低いといわれているからである。
ひとつは、感覚世界を味わう体験である。大人が言葉で教えようとするとき、子どもは実体験ではなく、言葉という記号を使って構成された「概念世界」での理解を押し付けられることになる。実体験の伴わない学びは空しい。俗にいう「頭でっかち」になる。ところが、子どもは草、花、木、布、石や土などの身近な素材に直接触れ、見聞きし、舐め、匂いをかぐ体験を豊かにすればするほど言葉ではなく、自分の感覚を通してものごとを理解するようになる。この感覚の学びは言葉の獲得とともに減じるようになるといわれており、子ども時代ならではの世界である。
三輪車やストライダーにまたがり、京都まで行きたいと言う子どもがいる。よし、どこまでも行こう。子どもからもらったチューリップをハンドルに飾って。