『保育の種を撒く』のお話

『保育の種を撒く』のお話

園長: すぎもと かずひさ

全身を震わせて鳴く蝉のエネルギーが子どもらに元気を運んでくれる。蝉のいのちは短い。はかないいのちの体験が幼心に深く大きく染み入る夏の日々である。

春、「福島ひまわり里親プロジェクト」に初めて参加した。悲しい震災の記録を子どもらに紹介し、「たびくまさん」の紙芝居を読み聞かせた。旅する熊さんの心は、甚大な被害を受けた福島から全国へいのちの絆をつなぎ広めるところにある。ゴールデンウィーク明け、三室戸・みんなのき両園でひまわりの種を蒔いた。種蒔きの後、自然に手を合わせる子どもたち。

7月初旬、願いが叶い見事に開花。みんなで喜んだ。今は種の採取を心待ちにしている。

先日、藍の花が咲き刈り取りのときを迎えた。子どもと職員で葉を収穫する。茎から葉を摘むだけで手が青くなりわくわくしてくる。はじめての生葉染め。子ども一人一人が藍の葉を一枚ずつ絹地に置いて木槌でたたく。布地に藍の汁が染みこむ。葉を剥がす。葉脈まで写る出来映えに子どもらの歓声。藍色を反射してその表情にも感動の色が濃い。

保育士にしてみれば二年越しの藍物語である。染めのおっちゃんこと斎藤洋さんの影響を受けて草木を染め出した昨年の春。思うような色が出ないので、試行錯誤の連続である。子どもらはわずかな色でも喜ぶ。それでも鮮やかな青色は垂涎の色であった。図鑑を調べ藍に辿りつく。保育士は藍の種を求めて手紙を書いた。こうして昨秋、福知山と千葉の方々から種をいただいたのである。

3月、保護者有志の方々と協力して畑をつくった。子どもらも手伝った。

4月種蒔き。そんな矢先に染めのおっちゃんの工房で開かれた藍染展に出かけた。偶然にも種をいただいた福知山由良川藍染同好会の花城夫妻と出会う。以来、苗の定植から栽培のいろはを教わる。ことあるごとのメールの質問に対する心温まるご指導は感謝に尽きない。

7月、20周年を迎えられた『由良川藍染作品発表会』を訪れた時のことである。「自分たちが大切にしてきている藍染に未来ある保育園の子どもたちが取り組んでくれていることが何よりもうれしいんです。園の写真をホームページで見て夫婦揃って感動しています。」とのことであった。「木や草の花は、花が萎れても花のいのちの終わりではない。萎れてから、花は、種づくりという大仕事がはじまるんだ」。植物写真家 埴 沙萌さんの言葉である。輪廻をひしひしと思う。

目次