『土あそびに笑う天才』のお話  

『土あそびに笑う天才』のお話

総園長 すぎもと かずひさ

土と水。好奇心の対象をさまざまに変化させながらあそびを発見・展開していく子どもの流動的な心と素材=土+水が大活躍するある日のこと。

ジグソーパズルの1ピースのように曲がりくねった周囲を持つ浅く広めの水溜りがあった。当初は恐る恐る足をつける子、手でピチャピチャする子もいておとなしい風情であった。

そこに板が運ばれた。板は橋になった。水溜りの上に架けられ、子どもらはその上を渡り始めた。面白いらしく、つぎつぎに運ばれ、いくつもの橋ができた。いつしか、板の下に切り株や厚みのある木材を置きだし、高さに変化をつけたり、斜面をつくったり、試行錯誤を楽しみだした。

この活動が環境に少なくない変化をもたらし、子どもらのあそび心に火をつけた。高さが飛び降りを誘い、斜面が滑りを促した。しだいに彼らは、ピチャピチャ人からバシャバシャ人への進化を遂げて行く。劇的に変化したのは汚れに対する抵抗感であった。ためらいをあきらめに変えた彼らは、あそびの真髄である純真たる開放感を満喫しながら互いに泥をかけ合い、擦り合うのである。

あそび心は創造の源泉であり、新たなひらめきを生む。つぎに彼らが実行したのは橋桁の中央付近下の穴掘りであった。水深があるほど飛び降りたときの泥跳ねや刺激が大きいことを直感的に理解・想像してワクワクを高めながら共感さにあらずの以心伝心で目的を共有し協働し始めた。

穴掘りは新たな土をつくり、泥の風合いに妙味を与えた。上半身で水や土を加え、せっせと湯船をかき混ぜる。下半身で感触を確かめながら泥加減を調整していく。穴はどんどん大きくなっていった。「温泉やぁ」一人が告げた。「そうや」、「そうや」・・・。

かくして穴は温泉になった。まめに味見するスープ職人のように様子見を口実に試し湯を繰り返す一味がやけに楽しそうである。ついに彼らの基準に合格して泥湯温泉は完成。はたして、そばに居る者たちは片っ端から入浴を勧められた。わたしも例外ではなかった。リアクションを期待する悪戯真面目な顔、顔、顔。入浴前から笑いが漏れる。そして、ジャンプ。

「うぉーっ、気持ちええ!」期待を裏切るまいとしていた我を忘れる泥加減に素直な歓声がでる。ぼくも、わたしも、一人一人のあそびの天才にスイッチが入る。きゃっきゃ、がやがや混浴がすごい。無理やり手を引かれた保育士は湯船につながる山の斜面に連行されたあげく、背中を激しく押されての入浴。笑う天才たちの波紋が生まれる。

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