『 生活の糸と遊びの糸を結ぶ 』のお話 

『 生活の糸と遊びの糸を結ぶ 』のお話 

 理事長 すぎもと かずひさ

ごっこ遊びのお母さん役のまま片付けをし、ごはんを用意する子ども。得意満面で食器を用意している様子がいじらしくて思わず「ありがとう」と言葉をかける。「テーブルにお花を飾ろうか」と告げるや否やとっとと走っていく。さっき折ったばかりの色紙の花を花瓶に入れて一人二人と仲間を連れてやってくる。生活と遊びが結ばれる瞬間である。パッチワーク的、断片的な「場面の切り替わり」などお呼びでないこんなやり取りが子ども心を盛り上げ、食卓に花を咲かせていく。

先日、法人のお米を作ってくれている西山さんが田んぼの土を持ってきてくれた。毎年稲苗をいただくのであるが本職さんのようにうまくつくれない。お米屋さんがつくってくれた手動籾摺り機も籾が小さく撫でるほどにしか摩擦がかからず剥けないようすに、土が原因に違いないということでわざわざ綾部から届けてくれることになったのである。

春は「土」。子どもたちは土に戯れ、仲間をつくり、種を蒔き、植物の成長と自分自身を重ね合わせながらやがて『生命』の不思議に感動し、その奇跡に心躍らせる。
そんな折の「土」のプレゼントである。子どもながらに喜びを口にする。 西山さんはどんな人?どこに住んではる? みんなの田んぼはどこ?かくして西山さんを出迎えるためのミーティングが始まった。農業を営む人にとってまさに宝の土。感激一入の子どもたちがいよいよお出迎えである。

 「お米の口は根っこ、のどが乾いたら人間と同じように水がのみたくなること」「稲は光が大好きなこと」「綾部で一番おいしい野菜は万願寺甘唐辛子であること」「万願寺甘唐辛子ができるのは7月、できたら送ってくれること」。子どもたちの質問にやさしく、力強く、時に絵を描き図解しながら答えてくれた西山さん。一緒に土を運び、別れ際は子どもたちの握手攻めであった。

 「みんながお米のこと大好きなことわかったしこれで安心して綾部に帰れるわ」「こんな生き生きとした子どもたちを見たことがない」「先生になれんかったけどこんなふうに子どもたちと触れ合えて本当によかった・・・」。保育園の延長保育のアルバイトをしながら教育大に通っていた彼が夢を目前に父上の遺志を継ぎ25歳の若さで弟さんと二人苦難の道を歩まれてきての今日である。ご縁が有り難い。

 生きるための活動を『生活』という。分業化が進んだ現代社会。食べるための営みだけ取り上げても見え難く解りづらい。広大な背景を紡いでいく。生活の糸・意図と遊びの糸・意図と。結ぶところに「生きる力を育む」ご縁の道。

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