『身も心ものびのびと、夏』のお話
理事長 すぎもと かずひさ
梅雨空に晴れの日を思う保育室は熱気むんむん蒸し暑い。「なっがい、なっがいのんつくろう~!!」、口の泡と汗は子ども機関車の蒸気さながらに遊びの景色を走らせる。ペットボトルを縦に半分に割るとU字型断面の部品が二つできる。けがをしないように断面に沿って色とりどりのビニールテープを貼ると安全と装飾が一石二鳥、こうして出来上がった部品をつなぐ遊びだ。このプラスチック製の「溝のようなもの」をできるだけ長くして外に持ち出し、水を流そうというのが子どもたちの魂胆であり、その願いが単純な遊びに夢を与え意欲を高めている。AちゃんもBちゃんも・・・Zちゃんも興味を持つ誰もが思い思いに遊び心をつないでゆく。
待ちに待った晴れの日。先日来、つくりためてきたペットボトル群がいよいよの登場である。自分が、自分たちが携わってきた思い出と仲間の顔、顔、顔。園庭に持ち出すまでのワクワクも楽しい。喜びの表面張力はまさに零れんばかりである。
ペットボトルでつくった「溝のようなもの」を地面に下す。平らではない。水は高所から低所へ流れる。そのことを知りわざと斜面に置く子がいる。板で斜面をつくる子。丸太やコンテナを用いては高低差をつくりその上にペットボトルを張り巡らしてゆく子。築山に設置する子。微妙な調整を仲間同士協力しながら土や小石を敷く子。誰もが活躍している。お陰で目の前の世界が実現している。
放水。新たな現象を子ども自らが加え、世界をつくってゆく。夢に描いた瞬間だ。各所から歓声。水を追いかける。すでに壊れたところがある。悲鳴とも歓声ともつかない情動の渦が巻き起こる。
光に躍る。光を遊ぶ。太陽が水面に美しい。水路の上を子どもらが行く。下から見上げるように覗き込む。ペットボトルの接続や延長、改修が自由気ままに行われ、みるみるうちに子どもの手を渡りどんどん長く広がってゆく。キラキラの水流にいくつもの子どもの頭がうごめいて鈴なりの好奇心が駆け回る。幼子の瑞々しいエネルギーが迸る。無我夢中である。いつしか個人は遊びに溶けて、皆が遊びに覆われてゆく。遊びに仲間ごと溶ける一体感、このダイナミックな体験こそが「土」や「水」遊びの神髄であろう。
時の流れはゆったりと、やりたいことはたっぷりと、子どもの遊びが盛り上がるところ、願いを実現するに必要な知識や技や仲間が集まっては広がってゆく。身も心ものびのびと、夏。