『 水も滴るいい子ども 』のお話
理事長 すぎもと かずひさ
「水も滴るいい子ども」がわんさか園庭をお通りだ。プール開きに梅雨明けを経て、水遊びもいよいよ佳境に入る。「いよいよ・・・」は「いいよいいよ・・・」やんなぁ?おっさんの脳は幼児のようにダジャレを垂らす。築山を真ん中に樋さながらに張り巡らした竹材がプールの天井に持ち込まれ、流れ落ちる水の下で修行者のごとく手を合わせ頭のてっぺんから水を受ける。子どもが群れる。その喜びようは、さっきまで水を恐れていたことなどあっという間に置き去りにしてゆく。新たな自分と出会う夏、自信を大いに育む夏である。
気温や水温がわずかに温かいだけでのびやかになる。子どもの動きに柔らかな表情がついてくる。水量が増すたびに歓声が大きくなる。ダイナミックにはしゃぎまわる。この恵まれた環境を思い、語り伝える。喜びは感謝の泉である。身も心も大きくなる子どもと大人の輪が波紋のように広がってゆく。まばゆい空が果てしない。この感動や感覚こそが「今を生きる人間の主体」であり、「乳幼児教育の主題」である。
そして、これら「感触・感覚・感動」といった人間ならではの育みを土台に子どもらの遊びがやってくる。キーワードは「試行錯誤」である。「試行錯誤」は人工知能との共生時代を人間が人間として生きる根幹を成すキーワードであり、今春、中央教育審議会幼児教育部会で掲げられた新たな教育要領の根底を支える言葉である。
「試行錯誤」は「失敗」を最も尊い言葉とする。「なぜ?」「どうして?」「どうなるの?」という子どもの好奇心や知的欲求から生じる活動意欲をそのままに、「やってみよう」、「味わってみよう」と体験を促す言葉である。「だから、いったでしょ」、「ほら、みてみぃ」等という子どもの勇気をしぼませる大人の先回りをたしなめる。
船をつくる。プールで進水式だ。傾く。重心の不均衡に「気づく」。船のてっぺんに取り付けられた重い部品を外す。考える。直観的思考が鋭い。接水面を広げるように外した部品を船体横に取り付ける。船の揺れがちょうどよいバランスを教えてくれる。このようにして「気づき」から「活動」・「活動」から「現象」・「現象」から「さらなる気づき」へと思考と喜びを伴い、増進させながら循環してゆくのが子どもの遊びの実体である。遊びの発展が子どもを大きくする。子どもが安心してチャレンジするところに「水も滴るいい子ども」。生命が漲る。