『 「夢の場所」のプレゼント 』のお話

『 「夢の場所」のプレゼント 』のお話

 理事長 すぎもと かずひさ

子どもは抱っこが好きだ。からかいやちょっかいも大好きだ。通せんぼうさながらに足を差し出しても、無邪気にずり寄ってくる。身体の方へ、顔の方へ、ズリズリズリズリ。よだれはイルミネーション、流れ星のように糸を引きシャツの彼方にこぼれて消える。人と触れ合う心地よさ。情動から行動へ。愛してくれる人、愛する人のいるところは「夢の場所」の第一である。

ところで、「安住の地」等ではない。尻を向け、さっさと「こたつ峠」へ向かう。自らの体重でずれる布団と戯れながらたどたどしい身体操作性を補って余りある好奇心を案内に探検は続く。時折振り返る。振り返っては進む。振り返るたびに笑顔の口元によだれが光っている。よだれの道しるべがヘンゼルとグレーテルのパンくずのエピソードを蘇らせる。

子どもの好奇心は面白いもの、心地よい場所を発見し、何でもないものを面白いもの、心地よい場所に変換する。遊びのはじまりである。水たまりに踏み入れてじゃぶじゃぶする遊びのように、手洗いやお風呂等の日ごろの活動から水の特性を知り、面白さを予見して当初から面白さを的中させる活動がある。一方で、歩行もままならない子どものジャングルジムのように全身全霊を込めて一段上っては視界の変化とともに恐怖を味わい、だからこその達成感を土産に、次々に世界を高め、深めゆく遊びもある。

さまざまに生きる子どもたちが興味や関心のままに自由な活動を保障されること。やってみたい・挑戦したい・学びたい欲求や意欲を充たし、ものと関わりつくりゆくところが「夢の場所」の第二である。

笑いが起こる。誰かの「愉し気」な活動から出会いや集いが生まれる。一人でいるように見えても、気配を味わい、影響し合っている。遊びは子どもの願いを実現する営みだ。さらなる面白い体験へと互いに誘い合う子どもたち。共通の目的や夢の実現に向かって、手を取り合い、助け合い、一人では決して味わうことのできない遊びを展開させてゆく。「友」という字の語源にふさわしい「夢の場所」の第三である。

ヘンゼルとグレーテルは食糧難時代の子捨ての物語であった。少子化の現代を重ねる。子どもが生き難い時代、社会性が育ち難い時代と言われる。

子どもたちが、風も、ものも、人も味方にしてジャングルジムのてっぺんから叫んでいる。見渡す世界はどんなであろう。いのちの灯りが目映い。この子らの現在に、未来に「夢の場所」のプレゼントを思う。

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