『 さんちゃんの初日の出 』のお話

『 さんちゃんの初日の出 』のお話

理事長 すぎもと かずひさ

園のロゴは三つの太陽である。「三」は「Sun」。ひらめきと同時に、かつての保育場面が蘇る。

 ある夏の日のことであった。お絵描き中に言い合いをしている3、4人の5歳児がいた。保育者が近寄り、様子を眺めていると・・・。「なんでやねん、なんで二つあるねん。」「そうや、太陽は一つやろ」「嘘つき!」と矢継ぎ早に攻められている男児。彼の絵には太陽が二つ描かれていた。仲間は、その二つの太陽の是非を攻めている。仲間の現実的正当論が激しいので、説明もままならず半べそをかきはじめる彼。保育者が仲立ちに入る。彼の腰を抱き寄せ、頭を撫でながら二つの太陽の話を尋ねてみた。すると、彼曰く、「暑くてな、暑くてたまらんかったからな、お日様をな、二つ描いてん・・・」とのこと。暑さの度合いを数で表そうという子どもならではの表現であったのだ。

嘘つきなどであるものか。保育者は彼の思いを代弁した。「○○ちゃんはな、とっても暑かってんて。今日はみんなも暑かったやろう。○○ちゃんはな、その暑かったことを描きたかってんて。ほんでな、お日様をな、一つ描いてんけど、まだまだ足りひん。もっともっと暑かったってお日様を二つ描いてんて。みんなも宇宙に行ったり船に乗ったりほんまのことと違うけど思ったり遊んだりすることできるやろう。それとおんなじやで・・・」、という複数の太陽の存在を応援する話。

これに、文部省創設の時代から教育の基本とされる「三育」、すなわち、知育=確かな学力、徳育=豊かな人間性、体育=健康・体力を重ねた。当初は、三つの太陽のそれぞれに「知育のち(知)-ちゃん」「徳育のとく(徳)ちゃん」「体育のたい(体)ちゃん」と名付けた。

 月日は流れ、「授乳中のスマホから母子関係が崩壊する」といわれる現代である。愛されることから生きる喜びへ、遊び心から生きがいの発見へ、子どもに見合った手間の味わえる活動から生きる力へ、人間本来の豊かな感情体験、子ども時代にしか味わえない原初的喜びを謳歌してもらいたいという願いから「じょう(情)ちゃん」「どう(動)ちゃん」「ち(知)ーちゃん」と名前を変えた三つの太陽「さんちゃん」である。

 太陽は地球の母である。子ども福祉の拠点たる園は母性の基地を目指す。保育者は社会の母を志す。「さんちゃん鍋」に歓声があがる。湯気の向こうの初日の出。子どもの、大人の、みんなの笑顔が「さんちゃん」である。

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