『 紡がれての師走に乾杯 』のお話 

『 紡がれての師走に乾杯 』のお話 

理事長 すぎもと かずひさ

「さんまと七輪」かつての日本の秋の風物詩であったさんま焼きを始めたのは30年以上も前のこと。ハンバーガーやカレーなどの洋食勢に圧されて魚嫌いの子が目立ってきたこともあり、クッキング保育のプログラムとして取り入れた。「そんなんしても食べへんて」と日頃の子どもの様子を思い浮かべて躊躇する意見もあったが、思い切って実行してみたのであった。

当日は小春日和。園庭は愉し気な子らの歓声で賑わっていた。焼きたてのさんまがうれしくて頬張るように食べている。3歳児さんも握り箸の子は握り箸なりに箸を巧みに使いながら身と骨を外すのに夢中になっている。頭から尻尾へと続く中骨の長さを競っているのだ。見せ合う子どもたち。隣の子とほぐしたばかりの長い骨をくっつけてハートの形にしたり、線路のようにつなげたり、小首傾げる角度が深い。そんな子どもたちの姿に職員もびっくりであった。むしゃむしゃ食べる子どもの中に魚嫌いの子が大勢含まれていたのであった。

さて、今年も師走。年越しの餅つきである。「おこめのおとうさん、おかあさんになる」。と喜んで迎えた稲の苗。苗を見た途端「かわいい~」、「ふさふさや~」と大興奮の春があった。「お父さん頑張るわ~」、「お母さんも~」と親さながらの稲栽培。田植え、収穫。もうすぐ足ふみ脱穀機を体験する。このタイミングで餅米の知識を学ぶ。籾摺りを経験する。

餅つきには材料が必要である。「のり、しょうゆ、さとう、きなこ・・・」材料を調べる。買い物にはお金のいること。お金を得るのは難しいこと。ここで勤労感謝の日に保護者のみなさんへ感謝の思いを込めて作った体験、照れながら渡した体験、喜んでくれてうれしかった体験とつながるわけである。

今度は自分たちの番だ。年長さんは、年下のきょうだいを思い、買い物に出かけてゆく。まずは材料の調達に必要な金額を調べる。わたしたちは子どもが調べた金額を1円から500円の金種別にし、一人一人にいきわたるよう硬貨で渡す。子どもは受け取った大切な硬貨を入れるために財布をつくる。連綿とつながる体験を通して、生活に必要な知恵や社会との関わり、数の知識などを理解してゆく。幼いころからグレードアップさせてきた「買い物ごっこ」の体験が活きてくる。本物の買い物を終えて誇らし気な顔。役に立つ喜びに満ちている。

忘年会シーズンに忘れ得ない子どもの物語。紡がれての師走に乾杯。

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