『 童心を引っ提げて船出 』のお話
理事長 すぎもと かずひさ
戸外が大好きだった。土を触り、花を眺め、ダンゴムシを見つめては好奇心を高めていった。土や砂を触ると手の跡が現れる。手を動かすと動かすなりに軌跡ができる。「表す」と「現れる」。その相互作用に夢中になった。手足や身体を操作する面白さ。こんなふうに物心がつく前から自然に描いていた。描画活動の始まりであった。上には色々なものがあった。木の葉はその一つだった。握ると手のひらで光った。地面には大きい、小さい、浅い、深い、様々な穴があった。全身を動かし、這い、穴のところで手を放した。木の葉は指から穴へ落ちていった。あっちの穴からこっちの穴へ、移動させては「無い」と「在る」を楽しんだ。つぎに、石を入れ、砂を入れ、水を入れた。「ひとつ」から「ふたつ」、「みっつ」、そして、「いっぱい」を味わった。
「ちょうだい」と声がした。にっこり眼で両手を差し出す人がいた。嬉しくて、握っていた葉をあげた。葉は、喜びであり、宝物だった。「あ~と~(ありがとう)」と頭を撫でられた。温かかった。嬉しくなってもっともっとあげたくなった。
遊びは、そのやり取りの根本に「喜びの交歓」がある。だから盛り上がる。発展する。仲間が増えると、喜びは倍増。どんどん動いて、遊び回った。探索活動は冒険だった。
2歳、3歳と大きくなるにつれ、願いも大きくなってきた。食料や着物、住居などの日用の糧を遊びに再現した。モデルは日常の生活体験だった。紙でも、粘土でも想像を膨らませるだけで何にでも見立てられた。どんどん作った。作ることが大好きになった。
4歳になると、本ものの種をまいた。種は可愛かった。いつも遊んでいる土の上にそっとまいて、土をかけ、祈った。水をやり、毎日祈った。発芽。踊り出すほど嬉しかった。世話の度に愛しさが募った。花が咲き、実ができた。みんなで食べた。美味しかった。ままごと遊びに「本もの」がやってきた。
年長さんになった。藍、米、大豆、味噌、梅干しなど、さらに「本もの」をいっぱい味わった。天気や温度に一喜一憂した。水や塩などの分量や調合を科学した。不思議の都度に「何で?」と考え、話し合った。先日の「童心のつどい(表現遊び発表会)」の孤高の「被り物」。藍葉、羽、花や枝等々が山盛り飾られて、頭の何倍もある高さのものや左右非対称の個性的創造性に満ちた唯一無二の作品ばかりだった。まさに体験を飾り、慈しみ、被っていた。
「環境と関わり、活用することによって生命を発揮する人間へ」。童心を引っ提げて船出。