「中学生がくれた保育の真実」のお話

「中学生がくれた保育の真実」のお話

理事長 すぎもと かずひさ

「僕がな、寝ようと思たらな、お姉ちゃんがな、おってな、優しくトントンしてくれはってん。何かな、嬉しくなってな、タオルケットに隠れてな、バァーってした。そしたらな、お姉ちゃんがな、めちゃ笑ってくれはってん。とってもいい気持ちになってな、嬉しかった。」

1歳児クラスの男児の心情を代弁してみた。午睡前の彼を喜ばせたのは、この日体験授業で保育に参加していた女子中学生である。園のOGでもある彼女は、10年程前は眼の前の園児と同じように午睡をしていた。身も心も大きく成長し、世話をする側になって再び園へ訪れたというわけである。

嬉しい気持ちで入眠すると良質な睡眠に恵まれる。また、目覚めの温かな関わりは寝起きの上機嫌をもたらし、その後の活動意欲を盛り上げる。

たかが一瞬、されど一瞬。「子どものそばにいる」、その意味と在り方。「優しい気持ちが醸し出す」雰囲気と表情。子どもにトントンする柔らかなタッチ。「いないいないばぁ」に応える笑顔。愛情が宿る仕草の一つ一つが伝わり、男の子は自らの喜びを「いないいないばぁ」で返したのであった。なおも笑顔で応える彼女。子どもと保育する者の間で「喜びのコミュニケーション」が見事に、対話的に繰り広げられていた。

場面を転じる。3歳児クラスの保育室。カプラの塔がそびえ立っている。見ると子どもたちが手に手にカプラを持って自分の倍の背もある男子中学生に積んでとばかりに群がっている。期待に応えようとする彼。固唾をのんで行方を見守る子どもたち。「カプラの塔よ、高くなれ」という願いとチャレンジする男子中学生への憧れがどんどん高くなってゆく。

園庭に目を移すと別の2歳児さんが頭から水をかぶっては「うわーっ」、泥まみれになっては「おーっ」っと元気を迸らせている。そのそばでもっと楽しんでとばかりにホースの先をつぶして水のトンネルをつくる女子中学生がいる。くぐっては歓声を上げる子どもたちと戯れ、まさに「交歓会」がたけなわだ。

ランチルーム前では女子中学生が道案内さながらの3歳の女の子に左手を引かれている。役に立つ喜びいっぱい得意満面の女児に身を任せ、もう片方の手は甘えん坊真っ盛りの男児に奪われている。助けられる喜びと必要とされる喜びの真ん中ではにかむように笑っている。

「幸せは豊かなコミュニケーションにあり」。保育の専門的な学習を経験していない中学生の彼らが垣間見せてくれた「保育の真実」である。

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