「子ども時代の生きざま」のお話
理事長 すぎもと かずひさ
子どもと絵の具との豊かな出会いを予見し、溶かし、混ぜ、遊びに適した色をつくろうとする保育者がいる。子どもの見ているところ、眼に触れるところで準備をするのは、「子は親の背中を見て育つ」的に限られた時間の中で子どもの生活と教育を両立させてきた保育者の知恵である。
「絵の具を溶き、適切な色をつくろうとする保育者の姿」が、そのまま遊びの導入の役割を担い、子どもの興味や関心の対象になっていく。一人一人が思うままのペースで保育者と関わり、絵の具と出会い、参加していく。誰もが自らの好奇心から遊び始めるので、自然、能動的な体験で彩られていく。この深まりが、やがて、自らの人生を主体的に生きるスタイルにつながっていく。
赤ちゃんの好奇心が湧き起こった瞬間のハイハイの速さはどうだ。全身で対象に近寄っていくその表情や姿は最早好奇心を通り越し、一挙一動に感激がみなぎっている。意欲どころじゃない。
絵の具に触れ「うわぁー!」、手に付いた色に「あっ!」と、「動」の感動が真っ盛りである。しばらくすると、色の付いた手で布や紙を手で触っては現れる跡や形に気づき、楽しみ、黙々と没頭し始める。「静」の感動である。子どもが自らつくり出す世界の面白さを感じ、継続的・持続的に遊びだす頃合いを見て、保育者は、色を混ぜ、つくるのをやめて、しばし子どもの行動を見守る。
画用紙を滑らせる手の感触は心地いいかな?手の動きに合わせて、変化していく色の混ざり具合はきれい?などと、子どもの遊ぶ姿から自分の用意した絵の具の濃度や色合いについての自問自答を繰り返す。また、紙や布などの色を乗せる素材、筆やローラーなどの描く素材の質と量にも気を配る。何が面白いのか、何を楽しんでいるのかを見極め、自身の専門性に取り込んでいく。
秋である。散歩が楽しい。様々な色の木の葉が美しい。虫食いの葉に教えられて穴を開けていく。「おばけみたい」と笑いが起こる。リスのほっぺのように膨らんだポケットにはどんぐりがいっぱいだ。小枝や枝で魔法をかける。倒木が船になる。数々のファンタジーを園に持ち帰り、園での遊びと結んでいく子どもたち。散歩の感動と絵の具の感動が出合い、さらに新たな世界が現れる。
未知の世界を開く遊び。生きがいの原型をつくる遊び。子ども時代にこそ体験したい生きざまがある。