『 子どもごころと秋の空 』のお話

『 子どもごころと秋の空 』のお話

理事長 すぎもと かずひさ

幅50㎝ほどの「水たまり川」に三輪車がスタックしている。前輪が水に浸かったその周辺で数名の2歳児さんが右往左往している。近づいてよく見ると困ったふうでもない。むしろ自分たちがつくり出した状況を楽しんでいる風情である。

一人が15㎝角、長さ30㎝くらいの木材を運んできて、「水たまり川」の真ん中に「そっと」置いた。ものの体積と水撥ねの関係を彼に学ばせてくれたこれまでの体験が嬉しい。どうやら、投入した木材を橋にして向こう岸へ渡るつもりらしい。泥水で木材の下半分は見えない。見えないから面白い。こっち側と向こう岸で見守る仲間も興味津々である。

注目の中、いよいよ挑戦が始まった。片足をかける。川底がぬかるんでいるせいで体重を乗せるたびに木材がぐらつく。そのスリルを味わいながら腰をかがめ、全身でバランスを取っている。危なっかしい。真剣さが伝わってくる。頑張れ。思わず応援する仲間。さっきの三輪車のハンドルを手がかりに巧みに、川への落下を防いでいる。ついに両足をかける瞬間がきた。そーっとである。

「あ~っ!」仲間が叫ぶ。傾く木材。両足を乗せた途端、全体重に耐えかねてさらに斜めになった。ギリギリのところで静止。何とか持ちこたえた木材を渡り、彼は無事に向こう岸へとたどり着いた。

ところが、これで終わらなかった。彼は、同じように三輪車の前輪を川に沈めて見ていた隣の友達に駆け寄り、その前輪を力任せに沈め始めたのである。咄嗟に友達も自分の三輪車を降り、阿吽の呼吸で協力し始める。二人の力に沈みこむ前輪。さっきまで水にはまらないようにしていたことの意味もない。すでに足は川の中だ。

エキサイトが止まらない。今度は前輪を深く沈めた三輪車の救出だ。押す。なかなか出ない。一人が三輪車のテールを引っ張り、一人がハンドルを押す。両側から、引っ張る、押す。何度も繰り返す。「バッシャーン!」、「わぁ~!!」、前輪をぬかるみから脱出させて三輪車を救出した代償に泥まみれになった彼。こんなに清々しい泥んこファッションはないだろう。

落ちないように渡るというスリリングな体験。そこで得たぬかるみの面白さ。その面白さを存分に活かしたダイナミックな遊びへの展開。仲間の体験を自分のことのように感じる心。だからこその共感があり、その共感あっての阿吽の呼吸であり、協働であった。すべて遊びの賜物である。感動に満ちた空の行方。子どもごころと秋の空。

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