『人間の発見と形成 精神の永遠性を学ぶ年明け』のお話
理事長 すぎもと かずひさ
― 人間を発見し、形成しつづけねばならない ―
この言葉は、空想の中から生まれたのではなく、現実生活の喜びや苦しみや悲しみなどのナマのふれあいの結果として、心に深くせまりきたったものである。
そこにたたえられた意味は、「ある優秀な典型をつくりあげたり、人びとをある優秀な典型にあわせてつくることではない。その本筋の意味は、うもれている個人の優秀性を発見し、解放し、伸ばしていくことである。それは、人間性の無限の変化に富むパターンに、さながら芸術家にも似た努力をもって、深くはたらきかけ、その色調の深さと、ゆたかさとを発展させていくことを意味する。」
これは、ケースワークの母と呼ばれるメアリー・E・リッチモンド女史の名著「WHAT IS SOCIAL CASE WORK?」の書中の言葉であり、昭和38(1963)年6月、弊法人の創設者である杉本一義32歳の時の訳書「人間の発見と形成」から引用した。
当時一義は、戦争で家族が犠牲になった子どもたちとともに児童養護施設の指導員としての生活を送りながら、昭和37年龍谷大学に開設された短期大学部社会福祉学科の講師としてのご縁をいただいたばかりであった。実践と研究を往還する大切さを実学する日々であったことだろう。
彼は自らの体験とこれから開拓してゆく社会福祉・教育の原野を展望し、あまりにもさまざまな生き方をしている人間社会の広がりに大自然の御前にたたずんだときのような畏敬の念を抱いたに違いない。そして、「ひとり」に還るのである。
「いのちを大切にするということ」という法人の理念は、1973年の創設以来今日に至るまで法人役職員の福祉・教育実践の拠り所となってきた。一人一人の子どもはみな唯一の存在として、その個性や特性が愛され、認められ、関わられること。そのためには、一人一人の子どもの個性や特性に対する高度な感受性が必要であること。自分自身とは似ても似つかない子どものパーソナリティに対して、本心からの尊敬を払うこと、それは福祉・教育に関わるものとして最も大切な才能の一部でなければならない。
今日という日の笑顔の向こうに訪れる明日がある。今というひとときの充実の向こうに一人一人の子どもの天賦の才能が花開く。新たな年はどんなかな、今日のきみはどんなかな。人間社会がさらに思いやりに包まれ、あたたかな方へ導かれますように。メアリー・E・リッチモンドに、亡き父に改めて精神の永遠性を学ぶ年明けに感謝。