『 いのちを大切にすること 』のお話

『 いのちを大切にすること 』のお話

理事長 すぎもと かずひさ

まわりのもののすべてを生きているもののように感受する「童心」は、現代社会において極めて尊い。大人にはじっとしているように見える枯れ枝や地面の凸凹さえ、子どもの目には生きている。手に取った枝が映す影のさまざまに、散歩に転がる小石のあれこれに、いまを生きゆく「童心」が「もの」から「霊(もの)」へ特別な生命を灯してゆく。「生命を大切にする」原体験は多様な生命と遊び生活する原体験であり、まわりのものを大切に思う創造力を育みながら、園生活に溢れている。

職員研修では、その点に着眼して保育者が感動の保育シーンを語り、実践の振り返りと共に分かち合ってゆく。「保育者が大きな紙にハサミで穴をあけてゆく姿を凝視する0歳児さん」の写真の真剣なまなざしが「つくりゆく、あるいは、起こりゆく一つ一つのものごと、できごと」のかけがえのなさを教えてくれる。生きて動くプロセスを共にすることの大切さ。「共創の保育」はここに端を発する。「子どもの好奇心をもとにする遊びづくり」と「働く保育者の姿から好奇心を生み共に育みゆく遊びづくり」は、子どもと保育者の間に流れる「創造と歓びの循環」となり保育の場に満ちてゆく。

「働く保育者」は、ときに子どもの憧れとなり、子どもの「やりたい」を触発する。自発的な手伝いが増えてくると「共創の保育」では、吟味しながらも可能な限り大人の手から子どもの手へ、実体験が適うように仕方や環境を整えてゆく。乳児さんの抱っこの姿勢やおむつ交換の協力動作に始まる手伝いが、1歳児さんの食事の気配を感じてのエプロン、椅子の用意、2歳児さんの衣服の整頓やおもちゃの片付け、幼児クラスの配膳や掃除などの種々の当番活動を経て、年長さんになる頃には自分のことは後回しにしても友達のお世話をするようにもなってゆく。肝心なことは、手伝いに宿るあたたかなこころの働き、やりたい願いの尊重と体験の積み重ねである。

「いのちを大切にするということは、あらゆる主義・主張・立場を超え、すべての人間に共通して重要なことである。激動と混沌、価値観の多様化した今日こそ、すべての人間に共有できる〈この一点〉に焦点をしぼり、これを現代を生きる人間のあり方の指針としなければならないと考える。」半世紀前に書かれた法人の理念は普遍である。

理想を探究する初心を胸に、「生命を、生活で、人生へ」、まわりの環境を大切に思う気持ちと友達思いのあたたかなこころを共に育んできた「童心たち」の卒園に感謝と祝福の拍手を送りたい。