『 ぬか床園の新たな始まり 』のお話

『 ぬか床園の新たな始まり 』のお話

理事長 すぎもと かずひさ

保育のねらいは、園で遊び生活するすべての子どもと大人に当てはまるものでなければならない。子どもはみな特別な存在である。一人一人の違いこそが「かけがえのない生命」の証明であり、愛おしさの源泉である。殊に個人差が大きく、著しい成長を遂げてゆく乳幼児期において、一人一人の、その時々の子どもの姿はまるごとの「生きている根拠としての主体」であるがゆえに、わがままも、駄々をこねる姿も、喜怒哀楽の一つ一つが可愛くも尊いのである。

「豊かな個性」の「豊かさ」とは、自ずから「多様な個性」のことである。誰もが愛し合い、存在を認め合う体験を通じてのみ、誰もが包摂されるインクルーシヴな社会を形成してゆく基本的な在り方を実感し、覚醒してゆく。「よしよし」と、ありのままの姿をあたたかく柔らかに受けとめられ、一人一人の特性や違いが生かされゆく保育の場には、いつも幸福感に彩られた情景とウェルビーイングな共生のかたちが拓かれてゆく。

このような願いを込めて、「生命を大切にすること」という理念を掲げ、「誰もが生き生きと生きゆくこと」を保育の最上位の目標に据えたのが50年前のことである。本年法人創立50周年を迎えるにあたり現在の保育実践に照らし、つぎのように加筆・修正した。アンダーラインを入れた部分である。

『一人一人が、〈自分のいのちを大切にするために、まず眼の前にいる人々のいのちを大切にする〉とともに〈立場の異なる人、遠く離れた人、さまざまに生きる人々のいのちを大切にする〉さらに、〈人間の生命をもたらしている多様な生命体及び地球のいのちを大切にする〉よう心がけること、これが真にいのちを大切にするものの具体的なあり方、生活態度の第一歩であるといってよかろう。-中略―すべての子どもが〈いのちを大切にし、お互いに相手の立場を理解する人間〉〈日常的な幸せから恒久平和を展望・創造する人間〉へと成長することを目標にした、新しい保育実践を展開する拠点として宇治福祉園はその探究に邁進する。

乳幼児教育・保育・福祉の営みを通して、子どもと大人の誰もがこれからの人生をいかに生きてゆくべきかを問いつづけ、一回限りの人生から〈永久のみんなのき〉を生きるための方途をともに学び合うことをあわせ目的とするものである。』

じっくりさんの「集中力」と、ちょこまかさんの「運動力」と、のんびりさんの「想像力」などなど、一人一人の子どもが持つ特性が幾重にも出会い、一人では決して体験することの叶わない「多様性という名の豊かさ」が、かかわり合うほどに各々の童心に発酵してゆく「ぬか床園」の始まりである。