『 退化から守る原体験 』 のお話

『 退化から守る原体験 』 のお話

理事長 すぎもと かずひさ

運動の混ざりあい、身体の混ざりあい、言葉の混ざりあい、想像や思考の混ざりあい、驚きや笑いの混ざりあいの主たる子どもたちは自ずから環境や世界を撹拌し、現象や変化、創造物をつぎからつぎへと生み出しながらくんずほぐれつやってくる。「生きる」と「つくる」が一になり、一でありつづける子どもの生命感あふれる生き様やそうあらしめる大いなる世界との関係に童心の崇高をみる。その見事な同一性を「没頭」あるいは「夢中」などといい至福の境地を表す。至福のままに遊び「入り」、遊び「込み」の深みへ縦横無尽に「遊び道」を拓いていく。「遊び道」には無数の夢が天空の星のように湧きちりばめられて、「夢数」の星のまたたきが今日も子どもと保育者に無上の喜びをもたらしていく。

「夢数」の「遊び道」には自然、魂が宿る。子どもの思いのままにかたちと意味を変えていく段ボールや広告紙、空き箱、牛乳パック、空き容器などのリサイクル素材の一つ一つ、一箇所一箇所に一人一人の子どもの特別な思いが凝らされ幾重にも重層的に構成されていく。さらに一つ一つの「夢の途中のかたち」の随所には、たとえば天井部分の落下や柱や壁の崩壊などなど予期せぬ出来事が幾度もおとずれたに相違ない。子どもは、その都度、新たな使い方を工夫したり悲しいアクシデントを嬉しい偶然に変換したりしながら夢を更新しつづけてきたのだ。

一心不乱に絵筆を滑らせていく3歳児さんの何と清らな眼差しだろう。わき目もふらず欲しい色の絵具皿へ向かい、あらかじめその場所を決めていたかのように描き創る4歳児さんの真摯な面持ち。「思いつき」や「ひらめき」は点的な瞬時の動態ではなく、永遠のひらめきともいうべき永続的な動態もあるのだと再考を迫りくる5歳児さんのチームワーク。以心伝心の交信力がすごい。

夢中の魂で世界にかかわり、その影響を世界や自他に迸らせ、現象・浸透させながら人間性という名の世界性をも育みあう子どもたち。一つ一つの同時性のうちに、行為のさまざまに夢現の育みが蓄積されていく。子どもの夢物語はこのようにして、毎日、いつ、どこ、だれかれともなく呼吸のように沸き起こり、真の子どもさながらの「夢の実現物語」が綴られていく。「真の子ども、即、子どもの真」はすべての子どもと世界に潜在している。タップやスクロールなどでは終ぞ味わい得ない「生の身体の知」を存分にはたらかせて冒険する子どもの「センス・オブ・ワンダー」、「生の環境・世界の知」が子ども、大人の退化を許さない。

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