『 真実を射抜く2歳児さんにありがとう 』のお話

『 真実を射抜く2歳児さんにありがとう 』のお話

理事長 すぎもと かずひさ

2歳児さんから年長児さんまでの子どもが一堂に会しての誕生会。保育者による「遊び屋さん」の遊びのひとつに「音当てクイズ」があった。大きなついたてで子どもたちの視線を遮り、保育者がいろいろな音を鳴らしては音の正体を子どもたちに当ててもらおうという遊びである。

1問目はドングリ。いっぱいのドングリを入れた空き箱を保育者がさまざまに傾けて転がり音を鳴らす。ところが、子どもの声やどよめきにかき消され、肝心の音が聞こえない。当てたい一心の子どもたちは聞こえないのに解を出す。子どもごころが飛んでくる。ヒートアップする音声の渦に「シーッ!」と沈黙を促す保育者とマイクでドングリ音を拾おうとする保育者のチームプレイが功を奏し、ようやく音が聞こえ始めた。

「フワヒャ~ゴヒャ~フギャ!・・・、こりゃなんじゃ!?」、マイクを近づけすぎたのかマイクと箱の摩擦音が激しく、ドングリとは思えぬ予想外の音が漏れてくる。子どもの純心がありのままに解を出すが当然ながら当たらない。「こりゃだめだ~」、観念した保育者はついに言葉とジェスチャーでヒントを出した。「丸くってな・・・」と指でOKサインをつくりはじめた途端に「ドングリ~」、と誰かのひとことから「ドングリ~、ドングリ~、ドングリ~・・・」の連呼が会場いっぱいに広がっていく。

2問目は落ち葉。ビニール袋いっぱいの落ち葉を保育者が、手でもんだりかきまわしたりしながらカサカサ音を鳴らすと・・・、体験と音を見事にフィットさせた子どもたちの「落ち葉~、落ち葉~、落ち葉~・・・」の大合唱。ようやく本来のゲームになったと思ったのも束の間、悲哀は3問目にやってきた。

保育者演じる虫の鳴き真似をもとに虫の名前を当てようというのであるが、江戸家猫八さんクラスの物真似師ならともかく、まったくの素人が演じるのである。お題は「スズムシ」であった。「スズムシ」に近づけようと精一杯の裏声を駆使しながら頑張る男性保育者。ところで頑張れば頑張るほどに可憐な鳴き声から遠ざかるばかりである。1問目の悪夢が蘇る。正解が出る由もない。もはや出題の意味すらわからない音声のカオス、五里霧中のありさまである。

そのとき、最前列にいた一人の2歳児さんが何とも自然に呟いた。「Aせんせぇ・・・」。

「正解!その通り!スズムシじゃない!A先生や!!」

おとなの意図した答えじゃないけれど真実を射抜いた君はえらい!地声じゃないのによくわかったね、彼の熱演、魂のパフォーマンスにA先生が見えたのかな。おとなの珍問に正解を求めて答える子どもの純真へのうしろめたさを和らげてくれた名答に「ありがとう!!」

目次