『 こども晴れ、こども栄えの新年 』のお話

『 こども晴れ、こども栄えの新年 』のお話

理事長 すぎもと かずひさ

廊下の向こうから3人の年長さんが和気藹々とやってくる。あまりに楽しそうなのでしばらく様子を見ていた。目的地はさまざまなリサイクル素材や画用紙、絵の具などの保育材料が保管してある場所だ。さまざまな道具やつくりかけの大型作品、季節ものの教材が片付けられいることもあり独特の雰囲気を漂わせている。3人の足並みは意中の素材をゲットしようとする期待から軽やかそのものである。間もなく3人は手に手にそれぞれ異なるものを持って出てきた。鼻歌交じりでどうやらお気に入りの素材が見つかったらしい。歩きながら使い途が思いついたのか制作中の作品群が待つ保育室に速足で帰っていく。

ところで、素材たちはどんなふうに選ばれたのであろうか。欲しいもののイメージはあらかじめ固まっていたのであろうか。それとも物色中に運命的な出会いがもたらされたのであろうか。答えは彼らが手にしていた「ものたち」が教えてくれた。「包装用の赤いリボン」、「チェック柄のドリンクカップ」、「家具か何かに使われていた木材の切れ端」などなど、彼らが手にしていたものはそれぞれにそこにあることを予見し難い「ものたち」ばかりだった。

つまり、彼らは何も決めずにその場所に赴き、行き当たりばったりの偶然の出会いのなかから選りすぐり、自らの選択を意中のものへ仕立て上げていった。その場所は保育室にはない何かがありそうな予感を醸しながらこどもたちを待っていた。はたして、こどもたちは保育室では得ることが適わない「違い」に出会い、「違い」に驚喜し、「違い」に特別な感情を膨らませながら、自らの作品への登用を目論んでいる。「違い」は宝ものであり、こどもは「違い」を見つけては創りゆく天才なのだ。

こんなふうにこどもたちがつくる作品には、素材一つに愛着が宿る。一挙一動に「霊(もの)ごと」を宿らせ、ともだちと交換してはさらなるセンスに磨きをかけてゆく。参画するすべてのこどものこころが込められた唯一無二の世界、違うからこそ生まれるこどもたちの素敵なハーモニー。

一人一人が自由の主体として「違い」を楽しみ、喜び合い、互いの生活背景やその時々の心情・意欲・態度も含みこみながら幸せに生きていく感覚を感じ取り、生きていこうとするこどもたちの姿がある。一人一人のこどもの精神的欲求や成長欲求がしなやかに混ぜ合わさっていくさまは龍の如く天を昇ってゆく。こども晴れ、こども栄えの新年に感謝と祝福。