『 永久のみんなのきへの新たな一歩 』のお話

『 永久のみんなのきへの新たな一歩 』のお話

理事長 すぎもと かずひさ

雨降りの朝、こども用のカラフルな傘がてくてく園へ向かってゆく。親子でのおしゃべりやスキンシップなどを交えながら半ば道草のように進んでゆく姿は何とも眩い。微笑ましくも出勤時間やその日の所用など親御さんの葛藤の末にねん出された時間は美しく、さらに温かい気持ちが込み上げてくる。さて、遠く後ろから近づいてくる私の足音に、こどもが振り返る。瞬時に私に気づいて、わざわざ立ち止まり待っている。こども傘地の透明部分からこぼれるつぶらな瞳。思わず手を振ると、背の低い傘のなかで小さな手が可愛く揺れている。「おはようさん~」と私。「えんちょうせんせぇ~」と彼。心響き合う喜びが互いの声に乗って、素敵な一日の始まり、お母さんありがとう。

またある朝は、園から出かける私の方へ、かつて園児さんだったお母さんが急ぎ足でやってくる。「お~!」と懐かしさいっぱいに私が声を上げ、ジェスチャー大きく手を振ると、リアクションに窮し、「なんか勘狂うやん」と照れ笑いを浮かべながらも手を振り返してくれた。途端にこどものころの彼女の姿が喜怒哀楽の場面ごとに蘇り、面影どころかもはや園児さんにしか映らない。

人の思いは気分や雰囲気を醸しながら、表情や態度、仕草となって行為の一つ一つに現われ、未来に拓かれてゆく。こんな一瞬が積もり積もって50年。三室戸の、Hanaの、黄檗の、木幡の、三山木のこどもたち、保護者のみなさん、地域・関係者のみなさん、そして、私たち職員一人一人のあいだで拓かれてきたかけがえのない「ひととき」「場」を思う。面白いこと、愉しいこともあれば、ときに悲しいことやつらい体験をも生きゆく道理として、こどもと大人の誰もが味わってきた。

今年度の「京都保育研究集会(半世紀にわたり京都府保育協会・京都市保育連盟が府・市の後援を受け共催している)」では「保育で拓く、子ども・家庭・地域のウェルビーイング」と銘打ったシンポジウムを企画した。時代は変わったというけれど、それは昨今、近年の人間界のことであり、新緑も大地も空もいまはまだ人間を自然の一部として受け容れてくれている。こどもはこころに愛情がある限り、好奇心に充ちて自然や環境へかかわり、希望の未来を思い描き、「こども世界」をつくりつづけてゆく。然りながら、その世界は家庭や園や社会、自然、環境を映した世界である。

宇治福祉園50年の歩みに未来を重ねる。「永久のみんなのき」を生きるための方途をともに学び合う新たな一歩である。

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