『 風の布パピヨン 』のお話

『 風の布パピヨン 』のお話

理事長 すぎもと かずひさ

一人一人の子どもが現在を生きている証として繰り出す「遊びの産物」たち。そのはかなくもかけがえのない姿形に愛おしさが込み上げてくる。赤ちゃんが触れただけ、手に取っただけの布やヨチヨチ歩きの足音、足跡も生の鼓動に満ちている。つぎに何を見つめ、何に向かっていくのだろう。子どもが心を寄せるものは、その出合いはどんなかな。どんなふうに世界に触れて、かかわっていくことだろう。そこにその子どもならではの興味や関心・意欲が芽生え、天気や自然、環境たちへのかかわりが芽吹き、「いま・ここ」ならではの世界がつぎからつぎへと登場してくる。

今年も、みんなのきの各園では年長さんの「野染め体験」が行われる。野で染めるから「野染め」という。長さ18m幅1m20cmの木綿布を張り、参加者みんなで染めていく。この活動の原初は、赤ちゃんの頃の草花への好奇心にまでさかのぼる。子どもは生命と響き合う。植物や昆虫、自然現象をまっすぐ受け入れ、かかわっていく。表現しているのは人間だけではない。花びらや葉をちぎり、指先を濡らしては匂いを嗅いだ体験が色水遊びになってままごと遊びの食卓をにぎわしてきた。

そして、今年、前年度の年長さんから譲り受けた鍋を使っての「草木染め」遊びにまでやって来た。ドクダミの強烈な臭いに鼻どころか顔をひしゃげて笑い合った感覚、名もしらない野の花から授かった美しい色などなど、煮詰められていく花や葉は戸外で、散歩で見つけた宝ものであった。音や香りを聴きつづけていく感動の余韻が二重、三重に全身を包んでは、価値を深めていく。かかわり方の成長とともに、遊びの産物こそ異なるが、赤ちゃんの頃から繰り返し体験してきた、「いま・ここ」で出合い生まれた「ものたち」を遊びや生活に生かしていくスタイルは普遍である。「ものたち」との出合いとかかわりにより、生活や人生を豊かに、さらに充実していく体験は、生命及び環境への感謝の念を一層際立たせていくことだろう。

今年は三山木こども園が、かつて三室戸・Hana、黄檗がしたように、染め上げた布を使って制服をつくる。開長18m体長1m20cmの巨大な蝶が笠取の野原に、三山木の竹林でどんなふうに舞うことだろう。大勢の子どもたちが手製の刷毛で塗る。「いただきます」と、拵えてきた草木の染料を手に過去の感動と現在の躍動を重ねていく。「風の布パピヨン」が野に薫る風のままに羽ばたいていく。子どもたちの歓声、染めのおっちゃん、保育者たちの笑顔がふわり。人間の風と、初夏の風。