『童心という名の純心、即今の美』のお話

『童心という名の純心、即今の美』のお話

理事長 すぎもと かずひさ

宇治川はかつて日本で一番美しい清流だったという。その美しい川を取り戻そうと活動されている宇治川漁協さんのご厚意により、3年ほど前から年長児さんは鮎や鮒の稚魚の放流の手伝いをさせていただいている。子どもたちは大喜びで普段の水遊びで使い込んだ小さなポリバケツに稚魚を入れ、漁協の方たちが川原から川辺に向けて拵えた長い滑り台に放しては滑らせていく。帰りには稚魚の他にカワニナやテナガエビ、カワリヌマエビなどの宇治川に住んでいる生き物を持ち帰り、水槽での飼育をつづけてきた。脱皮した抜け殻を見て驚いたこと、攻撃しないカワリヌマエビの優しさを称えるなど、それぞれの生態と自分の体験とを重ねてきた。

宇治のカッパランド、田辺のカメカメランドの畑では藍や野菜の栽培にいそしんだ。葉がしおれる出来事に喉が渇いているからと水を飲ませてあげたり、茎が曲がっている出来事に虫を見つけ、取り除いたりしながらもその空腹を心配するなど、出来事が起こる度に目を凝らし、耳を澄ませ語りかけるように世話を続けてきた。園の屋上やバルコニーでも然りである。美味しすぎるお米をめぐっての雀や虫との知恵比べはアート(あっと)驚く連続であった。稲を守る案山子や竜に名前を付け、仲間で話し合いそれぞれの思いを託した。大量のカブトムシの卵に仰天しながら居心地がよくなるようにと幾度となく掃除や整理整頓をし、家をつくった。

さらには綿の花から種を仕分け、ふわふわの繊維を撚って糸をつくった。その糸で編んだマフラーや思い思いのもの。そして、藍の工程では、乾燥葉に水をかけポリバケツに密閉すると葉っぱが汗を出すことを知った。毎日攪拌しているうちに変なにおいがして、棒温度計は50度を超え60度にもなった。眼には見えないけれど確かに発酵菌という生き物がいて、力いっぱい活動していることが嬉しかった。1番灰汁、2番灰汁、3番灰汁をつくった。藍建てでは佐々木先生や花城さんから気持ちを込めて攪拌したりお世話をしたりするときれいな色に染まることを教えてもらった。本当にその通りになった。

今、それを証明するように一人一人が世界に一枚の藍染のTシャツを身に纏い何とも誇らし気な年長児さんたちである。あの小さな種に秘められた生命のパワーに感動したこころの根はどこまで伸びてゆくことだろう。子どもたちは体験を語る。生きている実感に満ち満ちた体験があったからこその輝く瞳が美しい。童心という名の純心、即今の美である。