『 「ごはんキャップ」の「ご馳走」 』のお話

『 「ごはんキャップ」の「ご馳走」 』のお話

理事長 すぎもと かずひさ

2歳児さんが三人、季節外れにもプールを覗き込んでいる。お腹を支点に今にもプールへ落っこちそうだ。これは「面白いこと」に違いないと、努めてそっと近づいた。好奇心の主はプールサイドの転倒防止に敷いていた「木の葉模様のマット」であった。三人はそれぞれにペットボトルのキャップを握りしめ、「きゃっ、きゃっ」と騒ぎながら、キャップを落としたり、放り投げたりしている。耳をそばだてると、「こっちにもあげよう」、「こっちにもあげて」、とキャップを「ごはん」に見立て、何枚もの木の葉模様めがけて放り投げ、その一葉一葉に食べさせようとしているのだった。

ところで、「ごはんキャップ」は必ずしも木の葉模様に命中しない。一投ごとにドラマが起きる。その一喜一憂が「面白いこと」の産出点であった。上手く命中すると「美味しいね」、「いっぱい食べてね」などと、木の葉模様に語り掛け大満足の三人であるが、失敗すると「木の葉さんが食べられなくて可哀想」と、大騒ぎ。的を外れた「ごはんキャップ救出作戦」が始まる。当初ねらっていた木の葉模様さんに食べてもらうには、手の届かないプールの底の「ごはんキャップ」を動かさないといけない。この課題に直面して、2歳児さんなりの体験的直観がマルチに働き出す。

一人が園庭を一瞥したかと思うと、数ある遊具の中から最も長いと思われるプラスチック製ショベルを持ち帰り、プールサイドにスタンバイ。直下の「ごはんキャップ」めがけて接近してゆく。みるみる全身が伸びる。届きそうで届かない、なかなか触れられない。やっとのことでショベルの先が触れたかと思うと「ごはんキャップ」は見当違いの方へ転がってゆく。何というスリリング、応援する二人も懸命である。仲間の「あいだ」が消え去って、一心同体の体験はつづいてゆく。もう一人が手ごろな棒を見つけ、加わってゆく。もう一人はプールのへりに片手でぶら下がり、頭を逆さに半身落っこちそうになりながら気勢を上げている。

そして、ついに「ごはんキャップ」は、目的の木の葉模様に到着した。まさに、「御馳走」である。身体の一部と化したショベルと棒は、それぞれに二人の身体を離れ、ぶら下がられていたプールのへりも、元の姿に還っていった。一人一人の行為ごとに全身を貫通する充実感と一心同体の三人ならではの躍動する生命の喜びを残して。無限と言っていい環境の中から彼らが選んだのは「ペットボトルのキャップ」と「木の葉模様のマット」であった。自らの行為に自ら意味付けをして環境と出会う人間の原点である。