『 梅干しづくり・愛着のプロセスはうめ~ 』のお話
理事長 すぎもと かずひさ
梅を取る。見上げる葉の陰にコロンコロンのお尻が見えている。高さに出会い、脚立で上る。友達と自分。順番を待つドキドキと梅の実に触れるワクワクが全身をめぐり、仲間の数だけ広がってゆく。誰かが帽子を逆さに開いた途端、餌を待つ小鳥のひなの口のように、逆さ帽子の花が咲く。咲いた帽子に次々に入る梅。そして、段ボールへ、大量だ。一つ一つを手に取ってみる。産毛が可愛い。思わず顔を近づける。青梅の息吹香り立つ、初夏の一ページである。
重さを図る。一人一人が収穫し、喜び味わった梅の実は、やがて透明のビニール袋に集められてゆく。ビニール袋は上皿秤の上で当番の子どもに支えられ、玉入れの籠さながらに口を開けている。「ひと~つ、ふた~つ、み~っつ・・・」、入れるたびに針が揺れる。子ども心も揺れる。凝視する眼に「ものが新たな世界に入るときは揺れること」、「客観的事実を捉えるときは揺れが安定するまで待つこと」を教えてくれる。重さは、実の数の足し算でもあり、仲間の人数の掛け算でもある。量り終えた袋を持つ。ずっしりと重い。一つとは大違い、みんなのいっぱいが感動の重さになった。
水で洗う。車座の仲間にステンレスのボールを回す。ボールにみんなの顔が映っている。三面鏡を覗き込むように一つずつ梅の実を入れていく。名残惜しさと待ち遠しさから前の友達と次の友達の手足や吐息が絡んでくる。ボールが揺れる。香りを追いかけるウェーブだ。いよいよボールに水を張る。仕事がうれしい。当番になった子どもの充実した顔。こぼさないようにと、祈る仲間。梅の様子を横から上から、近くから遠くから眺めつづける眼差し。「うーちゃん」とか「ほしくん」などと愛称を付けては語り掛ける子どもが現れるほどに愛しい。
へたを取る。洗った梅の実の水分をしっかりふき取ったら、つまようじをもらい、へたの場所を見定める。自分も、友達も、真剣だ。「やさしく、やさしく」と声をかけ合いながら、丁寧にへたの根元をほじってゆく。みるみるティッシュペーパーの上にへたが積もる。山盛りになった梅が輝いている。塩と梅を交互に瓶へ。最後は袋に水を入れて蓋をする。みんなが入れた。みんなで入れた。
こうして漬けられた梅干しである。子どもたちがパワーを送る。パワーの正体は言うまでもなく、プロセスごとに育まれてきた愛着である。「うめ~」に違いない。