『年ごとに あたたかに見る 初日かな』のお話
理事長 すぎもと かずひさ
子ども時代を満喫する。子どもだからこそ見える世界をじっくり味わう。じっくりとした味わいの中には、身近な世界を構成している空や地面、地面から生える植物、そこに生息する虫や小動物などの自然環境がある。さらに、人間がつくった道や乗り物、ビル、家屋などの建築や構築物、家具や道具などの備品や物品がある。子どもはそれらを眺め、興味や関心を示したり、高めたりしていく。見て触れて、受動から中動へ、中動から能動的活動へと心の運動と関わりを増大させながら、自分とものとの間で様々な相互作用を生起させては、次から次へと現象を楽しんでいくのである。
子どもが創出する現象には不思議がいっぱいだ。乳児室では何枚も貼り合わせた大判の新聞紙が子どもの頭上を舞っている。その下に潜り込み雪のかまくらのように内の空間と外から差し込む光の景色や感触を味わう子どもたち。やがて、手や顔や足が新聞紙に触れ始めると、能動性が目を覚まし、丸める遊びやちぎる遊びへと発展していく。満面の笑顔の先に、つくる遊び、自ら環境に関わり新たな環境を出現させる遊びが始まる。
幼児クラスでは三つ並んだプリンカップに黄、青、赤の順に色水が注がれている。子どもはそのプリンカップと並行に真っ白の毛糸を両手で持ち、持つ手を緩めて毛糸をたわませながらカップの中に垂らし、浸していく。滲んで色づく様子にくぎ付けの眼が可愛い。黄と青だけでなく、その間に緑のグラデーションが現れる。同様に青と赤の間にも紫のグラデーションが現れる。
思わず漏れる声、驚きの表情。一人一人の子どもの様子をバロメーターに保育者は、自らの知識や経験の知を感性でコントロールしながら保育環境に工夫を加えていく。
子どもが自らの手で現象を生起させ、発見と感動を繰り返す喜び。この新鮮な体験こそが肝心であり、子どもの心の財産となって蓄えられていく。自らの手で出現させたばかりの色鮮やかな毛糸を手に走っていく。新たな遊びに活用しようという魂胆がうれしい。
「思いを込めてつくる」。ものへの愛着を育む原体験が遊びのそこかしこに現れては形を変えていく。形を変えていくところに子どものひらめきや思い付きがある。ひらめきや思い付きを連続させながら新たなものを生み出し続けるところに柔軟な思考、軽妙なアイデア、工夫や試行錯誤が生まれる。
今日も子どもたちの陽が昇る。年ごとに あたたかに見る 初日かな。