『 愛の手 』のお話

『 愛の手 』のお話

理事長 すぎもと かずひさ 

「うわーっ!!」感嘆詞から始まる喜びよ。感動してくれるきみが最高に嬉しい。脈々と受け継がれてきた「藍染」という世界との出会い。

青い手を誇らしげに見せながらほっぺは赤い。種取から種蒔き、葉の大きさ、つや、色を愛でながら一喜一憂した日々。その成長に育まれる子どもたち。このかけがえのなさは何であろう。ロケットはつくれても生命はつくれない。生命の不思議は感動の連続である。葉を小さな手がやさしく包む。頬ずりをする。その絶対的な存在。出会い。夕にはもう出会えないかもしれない。切なさが美を惹きたてる。

葉を刈る。ジュースを絞る。まっさらの布を浸す。生葉の生命が布に宿る。乾いた布を飾る。そばを通るたびにふれる、頭をくぐらせる。思い溢れる布だ。

すくもづくり。藍の染料である。一般に知られてはいない。その「すくも」という言葉を活動し、生きて知る子どもたち。葉を乾燥させて、水分を加え、発酵させる。発酵すると臭う。始めは臭い。その臭いが匂いになる。「お酒のにおいや~」「納豆のにおいや~」見事に発酵するものを形容詞に使う。菌が活動する匂いである。子どもたちの靴の臭い。汗をかく。また臭う。さらなる臭いが元気の証である。60度を超える。棒温度計で測る。棒グラフにつける。毎日の観察記録は感動記録である。科学者の気分になる。小さな変化が嬉しい。未来が知りたい。

そのすくもを使って藍を建てる。藍建て染めの始まりだ。40度の湯にすくもを浸ける。アルカリを溶かす。灰汁を見つけ、用いていた先人の功績に頭を垂れる。毎日定時に攪拌し3~4日。いよいよ初染めである。期待値最高潮のなか白銀の布を浸し行く子どもの顔。砂時計で時間を計る。布を上げる。茶色、否、緑、否、青・・・。

「うわーっ!!」感嘆詞から始まる喜びの背景に子どもの活動があった。その一部始終を共に生きる仲間、保育者がいた。その保育者に藍染を教えてくださった人がいた。耕す先人がいて文化があった。

すくも水溶液を攪拌し、前後の温度を測り、管理する。これが、藍液がその生命を宿らせている約半年間の日課である。静かな感動。ここに至る一つ一つのプロセスに小さな子どもの大きな活動が息づいている。藍に染まった手を見せる顔、顔、顔。布一枚に子どもが宿る。愛の手がある。

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