「わたしの中で生きつづける子どもたち」のお話

「わたしの中で生きつづける子どもたち」のお話

園長: すぎもと かずひさ

ゆりぐみの子どもたちの来訪に
「みんなに元気もらったから来年もお茶づくりと古老柿づくりつづけるからまた来てな~」
と引退を踏みとどまってくれた宇治田原の爺じい・・・。
味噌づくりの大豆を用意してくれたお礼に送った子どもたちの絵手紙や折り紙を丁寧にファイリングして
「家族の宝物だよ」と見せてくれた醤油屋さんのおばちゃん・・・。
老人ホームの湯殿近くに飾られた子どもたちの写真や作品を眺めては、子どもたちとのふれあいの思い出に浸りながら笑顔で語らうおばあさん方・・・。
それらを互いに支え合う数々の人たち・・・。
 
 子どもたちの言葉は体験を語る。
豊かな体験なく豊かな言葉を語ることはできない。
文章や絵だけを豊かに書くことができないのは自明である。
それだけに書き言葉=文字による教育が一気に始まる小学校に入学してもなお、心を豊かに育む体験が増えて行くことを切に願う。
子どもたちが描く絵手紙や折り紙には、受け取る人たちや仲間や家族、それを喜ぶ自分自身の顔がある。
 思い出されるのはお亡くなりになる一年前にある講演会にお招きした岡本夏木先生の講演会の締めくくり言葉である。
 
 「人間、こんなおじいさんになっても励ましてくれる人たちがいます。
足腰がおぼつかなくなってきた私がよっこらしょと立ち上がろうとすると、頑張ってと呼ぶ声がするのです。
それは、とうの昔になくなった母の声であったり、ときに幼なじみの声であったり、幼き日にお世話になった人の声であったりします。
確かな映像とともに蘇ってきてはいつまでもわたしを支えてくれます。
このように自分の心の中で生きる人たちの存在を自己内他者といいます。
さて、現代の子どもたちの心の中に自分の一生を通じて応援してくれる人々がどれほどいるか。
その一員として子どもたちの心の奥底に生きつづけるわたしたちであり得るかということが子どもの幼児期に携わる人間として大事なことなのではないでしょうか・・・。」
 
 いじめ問題が声高に叫ばれる現代において、かつて家庭や地域社会の中で育まれた「人の気持ちを察する」「人とのかかわりの中で自己を認識し人生を計画・実行する」などの情動知能の大切さが注目されている。
多くの人たちに可愛がられて、多くの仲間と話し合い自分たちの望む未来を創りつづけてきた子どもたちである。
わたしの中で生きつづける子どもたちである。

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