「節電の夏、猛暑の夏、復興の夏、日本の夏」のお話
園長: すぎもと かずひさ
節電の夏、さらには猛暑の夏である。このような折、岩手県大槌町と福島県いわき市の保育園の園長先生方を講師にお招きし、保育所職員研修会を開催する機会に恵まれた。
今夏の被災地の現状はどんなであろう。大槌町は津波によって甚大な被害を受けた町である。被災前の町内人口15,276人、今年6月1日現在の人口12,286人。死者行方不明者数1200人超、仮設住宅での生活を余儀なくされている方々4700人超、被災の悲しみと復興の厳しさの真っ只中の二人の園長先生に実情を聞いてみた。園舎全壊の海沿いの一園は、現在仮設園舎で保育を実施しているが、代替地の選定が適わず再建の目途は立っていない。また、まさかの津波襲来を受けた山沿いの一園は2009年に新築された園舎の基礎を活用し同じ場所に再建計画中である。ところが、「被害の教訓を生かして設計変更を加えたい園側」と「元通りに復旧するべしという国の制度」の狭間で頭を悩ませている、とのことであった。
そして、福島である。人口流出約36,000人、がれき処理率12.3%。今月初めに福島県視察をしてきた真田敦史によると、南相馬市の除染対策予算は市の年間予算とほぼ同額。それでも、それらの対策にあたる人の問題、放射線がれき処理、住民自治等々の難問が山積だという。現地の人々曰く「同じ日本にいながら他の地域の人々に忘れ去られることが何より恐ろしい」とのこと。
「福島を越えて宮城や岩手に多くの人が行かれるなか、京都からは保育協会長さんをはじめ役員のみなさんが見舞いに来てくださった。お蔭で、折れそうになっている心がほっと一息つけました。」当時を回顧され時折声を詰まらせながら、発せられる福島の先生の感謝の言葉に目頭が熱くなる。悲しみや苦しみの中における出会い、きずなの尊さを思う。
続いて、地震のさなかに知人が撮影されたという福島県内の映像を観た。終わるや否や、「福島の映像を観たことありますか?おそらくご覧になった方は少ないと思います。地元の人以外、マスコミ関係者も含め、県外の人はすぐに県外避難されたのか、ちゃんとした映像が残っていないんです。」「誰も助けに来てくれません。みんなが被災しているのですから。わたしが保育室にかけつけると保育士たちはこどもらの周りを円陣で囲っていました。わたしは声をかけることしかできません。しっかりしようと。見ると、唇に血をにじませながら必死の形相で子どもたちを守っている保育士たちの姿がありました。女性はすごいです。」「救援物資は二週間ほども届きませんでした。だから、自分たちの命は自分たちで守れるようにしておかないといけないんです・・・。」
昨年は、福島に一度、岩手に二度訪れた。今年も保護者や関係者のみなさんから寄せられた支援の志を持っていきたいと思う。府内各所で行われている、組織的、かつ、個人的なつながりから今回のような場が継続される。あらためて末永いお付き合いを約束する。
節電の夏、猛暑の夏。福島県では、プール入水時に24時間張り置きした水の放射線量を測り、未検出を確認してから入水しなければならない。それでも、2年ぶりの屋外プールで遊ぶこどもの喜びようは、真夏の太陽よりまぶしい。こどもたちの笑顔はじける復興の夏、日本の夏である。