『 生命のふるさと 童心のつどい 』のお話
理事長 すぎもと かずひさ
子どもたちが全身全霊で遊んでいる。踊っているのだ。踊りがわきだすところ、歌がある。歌は童心の日々を源流に子どもたちがつくった。生活体験から生まれてきた言霊(歌詞)と脈動(リズム)と情流(メロディ)とを想像力豊かにまぜあわせ「いま・ここ」の場に蘇らせては歌い踊る子どもたち。真剣な顔も笑顔もある。思い思いのポージングがひびきあい、まざりあい、自由な表現が泡立ってゆく。季節の移ろいに気象や動植物、微生物などの自然や絵画に制作物、染色作品などの環境たちと好き好きに戯れ、織りなしてきた感動の思い出をまとい、まさに「人間愛」と「環境愛」をともに育み、「生命を大切にすること」という保育理念を地でゆく子どもたち。
発酵はさまざまな生命がであい、まざりあい、時間や空間などの環境条件が整ったときにじわじわと沸き起こってくる。ヒトは古くから微生物との共生関係を深めながら発酵食を貴重な栄養源に生活してきた。漬物樽のぬか床は、毎日漬物を食し、攪拌を重ねて時間の経過とともに絶妙な味わいになっていく。そこには生物の進化や相利性等のつながりあい、まざりあいを実現するかけがえのない生命の粒子たちの存在がある。同様に園環境をひとつのぬか床に見立てたとき、豊かで絶妙な味わいの保育を実現しつづけていくには、ヒトの存在のみでは到達し得ない世界観がある。
つくるはひとりでできない。ヒトだけでもできない。保育の日々を遊び、歌い舞い踊る子どもたちは自然の恵みや環境たちが与えてくれる世界の面白さ、尊さをうたう。森羅万象と諸行無常のまざりあう一隅で生命のひとひらに触れて、感覚が喜んだとき、空気に包まれてまざりあう心地よさに思わず快のため息をついたとき、魂という名の想像力はもう蠢いて美しい方、愉しい方へわきだしていく。遊びのはじまりである。
多様な環境にかかわり、さまざまなひびきあい、まざりあいを繰り返し、時間をかけて環境をも自らをも発酵させながら、子どもと保育者が協奏=共創する保育の物語が綴られていく。毎日漬物を食べ、ぬか床を大切に攪拌するおばあちゃんの掌のような保育を通して、一人一人の子どものさながらの姿と多様な生命、環境が重なりまざりあっていくところに、包容力に満ち、ウェルビーイングに拓かれた保育の「ぬか床」がいい塩梅で発酵していく。今日の保育がこんなにも面白く泡立っている。自然と一体となる至福のときを予感する。生命のふるさと「童心のつどい」。