『 みんなのきの初日の出 』のお話
理事長 すぎもと かずひさ
躍動する子ども達。興味津々の眼は懸命のハイハイやヨチヨチの先に、もう楽しいことを見つけている。いつでもどこでも、毎時、毎日、これから自分達が生きてゆく世界のもの・ひと・こと達と様々に出会っては、かかわり、いろいろな面白さや意味を綴りゆく存在である。
朝、園に入ると昨日の自分達に出会う。保育室には、つくりかけのブロックや拾い集めた小枝に色とりどりの毛糸を巻いたものなど、どれもが産まれたてのほやほやで未完の湯気が薫っている。小さいけれど活発に働く手によって、「遊びの作品」が続々と産み出されているのだ。「手」は当然のことながら、一人一人の子どもの全身全霊を代表している。子どもの息吹を浴びる一挙一動。ときにささやきかけられながら、ときに会話と共鳴するように、変幻自在の様相で、つくる子どもの思いの数ほど意味を生成し、新たな現象や形となって、自分達の生活空間を彩ってゆく。
園庭では、ある3歳児さん。どっかと腰を下ろし、三角座りで尻を支点、爪先立てた両足をコンパスの鉛筆部に見立て、爪先の開閉と左手で地面を押すようにしてくるくる回っている。見るからに窮屈そうな姿で何度も、何度も回っている。回転につれ尻と爪先を半径に見事な円が描かれてゆく。よく見ると、三角座りの尻・膝・爪先三角の底辺=地面に右手で添わせるように持たれたかまぼこ板のような木切れが見える。板の長辺を地面と平行に添わせながら、絶妙な摩擦係数で地面を擦り回ってゆく。この運動と仕組みによって、垂涎の遊びの逸品「さら粉(粒子の細かいサラサラの砂)」を製造していたのだ。
この全身を活用した「さら粉製造機」が、彼の今日の大発見・大発明である。「さら粉づくり」には、トレーなどの皿状のものに砂を入れ、前後左右などに傾けながら粒子の大きいものを落下させる「重力選別法」や木板やコンクリートの表面を叩いて集める「面叩き浮遊法」など数あるが、3歳児の彼にとっては難しかったのかもしれない。地面を削ってせっせとさら粉を集める単純作業をどれくらいつづけたのだろう。経験が実って「回転摩擦削出法」を編み出した功績と仲間を称えたい。
新たな年も、感動や活き活き感が人間関係を抱擁・包容し、成長や育みを促進する園でありたい。困った眉間、笑う首、真剣な瞳、ぼんやりした口など、目的の達成とは別次元で見せるその子らしい表情や仕草、佇まいは、なお尊い。一人一人の子どもの存在、生命の尊厳の実感に、誰もが主体となって躍動する「みんなのき」という生命体が生まれる、初日の出。