「みんなで醸す夢のはじまり」のお話
理事長 すぎもと かずひさ
春は、いのちがもう一度、静かに動きはじめる季節です。光がやわらぎ、風がほどけ、草木がひそやかに芽吹いていくように、子どもたちの内にもまた、新しい時間が動き出します。私たちはこの節目にあたり、あらためて「いのちを大切にする」というみんなのきの保育理念を、日々の営みの根に据え直したいと思います。
いのちを大切にするとは、子どもの時間と空間、素材や自然の時間と空間、そして人と人とのあいだに流れる時間と空間が、出あい、響き合い、混ざり合いながら、まだ名づけられていない何かを少しずつ生成していくことです。保育とは、その生成の気配に立ち会い、ときに支え、ときに待ち、子どもの姿に即して環境をつくりゆきながら、必要な折には憧れと模倣の対象ともなって、育ちの先をひらいていく、もったいなくも濃密な営みです。
思ってもみなかったことに出あい、揺れ、ためらい、寄り道をしながら、自らのリズムで世界を編みなおしていく感動は、乳幼児期ならではのかけがえのない体験です。土、水、風、音、匂い、友だちの声、保育者のまなざし、そのすべてが混ざり合うなかで、遊びは生まれ、関係は深まり、自分という存在もまた、ゆっくりとかたちづくられていきます。この、目には見えにくいけれど確かに起きている“発酵”の時間を、保育のもっとも大切な時間として受けとめています。
鈴木大拙は、真理は「理」法ではなく「詩」的であると語りました。すぐに役立つか、何を達成したかという尺度を一笑するほどの豊かさ。意味がすぐには見えない時間、立ち止まる時間、夢中になって繰り返す時間、言葉になる前の沈黙や余白。一見すると非効率に見える時間のなかにこそ、その子がその子として生きている深い意味が宿っています。理念は日々のプロセスの中にあらわれ、その積み重なりのなかで、一人ひとりの主体性やライフスタイルもまた、静かに醸されていくのでしょう。
みんなのきが大切にしているのは、この「共に過程を生きる」という保育の同行性です。系統的に構想されたカリキュラムと、子どもの自由で躍動的な展開。その両方を大切にしながら、丁寧な対話によって両者を結び、日々の育ちを「いのちのスケッチノート」として写真とともに描きとめ、ふり返り、さらに次の実践へとつないでいく。そこには、評価のための記録ではなく、いのちの動きに寄り添い、その意味を受けとめる、みんなのきならではのまなざしがあります。
人は、つながりの中で生まれ、つながりの中で生き、つながりを未来へと手渡していく存在です。「生きるということ」の根本を育む原体験の場。地域とともに希望を醸していく場。笑顔の未来は、どこか遠くにある完成形ではなく、いまここで共に生き、共に混ざり、共にわきだしていく日々の中から、静かに、たしかに生まれてきます。みんなで醸す夢のはじまりです。