『 かけがえのない子どもと世界の物語 』のお話

理事長 すぎもと かずひさ

春爛漫の陽気に誘われて踏み出す一歩。川沿いの桜並木を見上げる先に広がる青空。ご機嫌な自然に抱かれて身も心も喜びいっぱいの美味しい瞬間である。桜吹雪が子どもたちに降ってくる。ひとひらの花びらを摘まもうと地面にしゃがみ込む。桜と風が演出してくれる「面白い」場に溶け、「面白い」デキゴトへつくり込んでいく子どもたち。1枚2枚と花びらを摘まんではプラスティックカップに集めていく。ひたむきな心模様はさらに花びらのかたちをかえていく。小さいはなびらが細かくちぎられて土や石、虫たちとの新たな出会いを待っているかのようだ。素敵な予感が沸々してくる。子どものさながらと世界をあらしめているはたらきが混ざり、響き合いながら美味しい瞬間は連綿と生きる喜び、生命の物語を発酵させていく。

真新しい白い布が土山に輝いている。子どもたちが潜り込んでいるのだろう。まあるい頭の形が凸凹蠢いている。「わぁー!」「きゃあー!」と布の下から飛び出してきたかと思ったら、示し合わせていたかのような絶妙なチームワークで長方形の布の長辺を土山のてっぺんから山裾の方へ滑り台みたいに敷き詰めていく。当然のことながら摩擦係数が高すぎて滑らない。滑らない現実がイモムシ動作を呼び覚ます。両手を布地の上に付きお尻と足を伸縮、連動させながら滑り台仕立てに斜面を降りていく。5、6人の子どもが何度も何度も繰り返す。真新しい輝きを放っていた白い布は、土に遊び和えられて、いつしかまだら模様の風合いが帯びてくる。この布はどんなふうになっていくのだろう。

遊びとともに生まれ出づる多様な霊(もの)たちには一人一人の童心が宿り、そこに遊び踊る子どもたちにかけがえのない意味や価値、愛着を発酵させていく。見た目ではとんとわからない。ごみと宝物を見極めていく専門性と同行性が子どもさながらの保育実践には欠かせない。別々に映っていた遊びが時空を超えて繋がり合うことは遊びの自然現象であり、子どもの遊び人生を一層深めていく大切な要素といっていい。

朝、保育室の鍵を開け、遊びの姿跡をつぶさに感受する。前出の滑り台仕立ての布に幾重にも色彩、擦り跡、ハサミの切込みなど様々な趣向が凝らされ、子どもたちの思いの丈が押し寄せてくる。ふと布の端を見た。薄茶色い小さな何かが無数に置かれてある。そっと摘まんでみる。花びらだ。

さあ!新年度だ!どんなことが待っているかな。かけがえのない子どもと世界の物語のはじまり~、はじまり~!!

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