宇治福祉園について

『 ダンゴムシが教えてくれた鼻歌 』

2021.6.30

『 ダンゴムシが教えてくれた鼻歌 

理事長 すぎもと かずひさ

溢れんばかりの好奇心を全身に漲らせながらハイハイする0歳児さんの目的地は排水溝の蓋であった。背後から忍び寄り視線を重ねていくと格子状の蓋に陽が射して、水を湛えた底面に影が映り、水面に格子が揺れている。配管から流れ落ちる水が波紋をつくり揺らぎを演出しているのだ。その光と影と水流が織りなす景色が彼の心をつかんで離さない。吸い込まれるように蓋を覗き込んでいる。格子にしがみつき、地面との隙間がないほどの見事な匍匐姿勢が夢中な心情を物語っている。ここで見たこの光景、美しさ、不思議さはどんな風に彼の人間形成にかかわっていくことだろう。外界の無限の面白さ、新鮮さにわくわくする子ども、意欲いっぱいに遊び回る彼の姿を予見して嬉しくなる。

別の場所では3歳児さんの男児がプリンカップを地面に置き「これで完成~」とダンゴムシを数匹入れた上に木の葉をちぎっては丁寧にのせている。「これお布団!」。なるほど丁寧な所作の所以はそれやったんや。就寝中に、はぐれた布団を掛け直してくれたあったかい父母の思い出、心地よさをダンゴムシにプレゼントしているのかなぁ。

ところで「完成~」といったことなどお構いなしにダンゴムシハウスのコンディショニングに夢中の彼のもとへ、一人、二人、三人、四人・・・と年齢性別を超えて仲間の関与が止まらない。入れ替わり立ち替わり寄ってはダンゴムシを彼のハウスへ住まわせたり、茎や小枝を敷いたりなど、それぞれの仕方でかかわってくる。申し合わせているわけではないのに自然に受けいれていく彼。彼が揺れる。揺れながら歩く。歩きながら探す。見つけてはしゃがむ。その瞬間、出た。鼻歌だ~。

「ダンゴムシ シッ ダンゴムシ~ シ~シ~シ~ ダンゴムシ~」、ダンゴムシの「シ」が彼の仕草から迸るゆえに息吹さながらのなんとも絶妙な節回しである。ところがさらなる絶妙がのっかってきた。このときマイペースで彼のそばについては離れしていたダンゴムシ仲間が、彼の息継ぎの瞬間に「ダンゴムシ~」と合いの手を入れ、自分流の鼻歌を重ねてきたのである。

「アオイソラ~」「ダンゴムシ~」、二人の掛け合いはつづいてゆく。成長の喜びと生きる喜びと。生きる喜びは世界と共にある。躍り出したいような気持ちが湧いてきて声を響かせれば鼻歌。ダンゴムシが教えてくれた繋がる世界とのシンフォニー。生命を共に振るわす名もない活動の総称、遊びである。