『 氷遊びの年輪 』のお話
理事長 すぎもと かずひさ
豆腐大の氷がきらめいている。つややかに溶けて何とも魅惑的なフォルムである。その様子をじっと見つめていた0歳児さんが思わず手を出した。触れた途端に「アッ」と驚く。未体験の冷たさだ。手を引っ込める表情が可愛い。眼は氷を捉えたままである。刺激は面白い。冷たさの驚きが、好奇心を呼び覚まし、触りたい欲求を掻き立てる。もう一度タッチ!触っている時間が長い。触って濡れた手のひらを眼の前にして眺めた次の瞬間の「ニカッ」。驚きはもうなく、期待通りの感触を得て満面の笑みだ。1分にもならない時間の中での新たな世界との出会い、豊かな体験であった。
長梅雨の僅かな晴れ間のことである。2歳児さんが氷遊びを楽しんでいた。色とりどりに色づけられた氷は様々な大きさや形をした容器でつくられ、中には子ども達が昨日摘んだ花びらや葉っぱを閉じ込めたものまであった。牛乳パックでつくられた氷は四方の紙を剥がしていくと視界に現れて楽しみを増幅する。プリンカップや製氷皿でつくった氷は子どもの所有欲を満たす。持てるくらいの大きさ、冷たさになってくると一人一人がそれぞれに宝石のように手に持ち、見せ合ったり並べっこを楽しんだりしている。子ども達の眼も氷と呼応するように輝いてくる。氷の向きや角度を動かすたびに新たなきらめきと出会う。氷に透かして見上げる青空と光のハーモニー。1秒、2秒、3秒・・・美しさを堪能する真剣な眼差しに時が止まってみえる。青く色づいた氷が持つ指の体温で溶けて、掲げた手から手首の方へ滴っていることさえ気づかない。
さらに、年齢を重ねると氷遊びは継続的で意味のある遊びに展開していく。乳児さんの頃からの経験から水を冷やすと氷になることを学んでいる子ども達は、絵の具や草木できれいな色ができるたびに氷にしたいという思いを募らせる。10個入りの卵パックの窪みを活用して暖色、寒色のグラデーションを楽しんだり、透明カップに指で渦模様を味わうように混ぜたり、スポイトで落としては沈殿するさまや複数の混色を上下左右から眺め、楽しむ工夫を凝らしたり、氷にするまでの様々な過程を楽しんでいく。楽しんだ分だけの願いと愛着を抱きながら氷の完成を待つ子ども達。 仲間と一緒に作った大切な色水をこぼさないように冷凍庫まで運ぶ3、4歳児さん。自分たちの冷凍庫を備え自由に氷づくりを楽しむ年長児さん。初めて氷を触って驚いたあの日。開拓の月日、氷遊びの年輪が美しい。