『 熱中過程ゴールドブレンド 』のお話
理事長 すぎもと かずひさ
園庭に年中児さんの作によるカラーゴミ袋製のタープテントが設営されている。開口部の一箇所には縦110cm横10cmほどの板に数種の団栗とまつぼっくり、赤くくすんだ楓の葉、小枝などが向きや配置も意趣とりどりに貼り巡らされ、トーテムポールさながらに子ども族たちの素性を物語ってくる。連続するひとこまに種類の異なる団栗との偶然の出会いがあった。新種発見の歓びは興奮夢中のボルテージをさらに高めつつトーテム看板に飾られてゆく。
なかにお邪魔するとタープの中心を支えるメインポール役の木枝に別のトーテム看板が斜め掛けにビニールテープやガムテープでぐるぐる巻きに留められており、メインポールを補強する実用性とアート性を両立させながら踏ん張っている。おそらくメインポールの頼りなさ、いまにも倒れそうな危なっかしさが身近にあったトーテム看板を急遽補強役として斜め掛けにする子どもの発想や行為を呼び起こしたのだろう。当初は別の開口部の外と内の境界に飾られるかも知れなかったトーテム看板がいい塩梅に支柱に生かされ、偶然にも実用性とアート性を兼ね備えご機嫌になった。
計画的ではないから事件が起こる。事件はスリリングな体験であると同時に問題解決のチャンスをも与えてくれる。今ここにある木立や木材、ペットボトルなどの物理的環境をありあわせ料理の素材のように寄せ集めては知恵を絞り試行錯誤を繰り返す。ここは「〇〇ちゃんのひらめき」、この部分は「△△ちゃんの意見」などと子どもの遊びの世界における創造的想像はどこから、だれからでもオープンな直観的思考と即興的行為により発酵しつづけてゆく。種々の課題と向き合い、失敗を笑いで分かち合ったり、予想以上の仕方を見出し合ったりしながら、心身の多様な体験がもたらす充実感自体をウェルビーイングに繋げてゆくのである。子どもにとって意味や価値がある生を生きゆくことは、結果の良し悪しを問わない美的な成功体験である。
夜通しの大雨が降った。朝、心配を楽しみにテントを見にゆく。水圧にやられて低くなったテントの真ん中で木枝のメインポールと斜め掛けのトーテム看板の支柱が斜め掛けの角度を広げながらなおも踏ん張ってテントを支えている。接続部分のぐるぐる巻きのテープたちが濡れて強度を失っているのだ。さあ重力がやってくる。事件の予感に水も滴る子どもたちが現れ来るに違いない。違いが判る子どもの「熱中過程ゴールドブレンド」。