『身体接触はなぜ大切か、愛着形成と新しい生活様式』のお話
理事長 すぎもと かずひさ
2020年4月より全国私立保育連盟保育子育て総合研究機構の研究企画委員を拝命し、月1回の委員会に参画している。その有難いご縁もあり連盟の理事も勤めておられる京都大学大学院教育学研究科教授の明和政子さんのセミナーに参加したり、文章を読ませていただく機会に恵まれてきた。研究室のホームページ(https://myowa.educ.kyoto-u.ac.jp)には「人間の心の発達と進化の道筋を探究する」と謳われている。その一つとして、コロナ禍の今、赤ちゃんの頃からの成育環境や経験がその後の脳や心に与える影響などについて、発達科学者としてできることは何かと真摯に問いつづけ、その成果を国内外に主張・提言されている。
そのなかから、ヒトという生物が進化してきた脳と心の発達にとって必要不可欠な身体接触の重要性について、今後のコミュニケーションのあり方を模索する際の参考として紹介したい。
子育てにおいて最も大切な「愛着の形成」について、授乳場面を例に考えてみる。まずは、抱っこという身体接触があり、見つめ合うという眼差しの交感があり、「ちゅっちゅっちゅ、おいしいねぇ」などと、イントネーションにも配慮しながらの語りかけがあり、さらには赤ちゃんの手足や全身をさすったり撫でたりもするだろう。まさに、視覚刺激と聴覚刺激、触覚刺激が一つのコミュニケーションのなかで同時に起こっている。この時空間が、赤ちゃんの外受容感覚(いわゆる五感)と自己受容感覚(筋骨格などの環境への行為で生じる体感)及び内受容感覚が統合される絶好の機会となっているという。内受容感覚は、抱っこされたり、撫でられたりすることによって活発に働きだす。血糖値が上がり、心地よい感覚を赤ちゃんにもたらす。さらにはオキシトシンやセロトニンといったいわゆる幸せホルモンの分泌が促進される。
あらゆる生物のなかで、人間だけが可能なこのかかわりによって、赤ちゃんはコミュニケーションを交わした相手の声音、声色、顔を記憶として刻み込んでゆく。愛着は一旦形成されると、その人の声を聴いただけで、顔を見ただけで安心をもたらす。さらに人間としての基本的信頼やあらゆる活動の土台となることを考えたとき、赤ちゃん=人間にとって身体接触がどれほど重要か、容易に理解できるだろう。このことを根幹に置きながら、新しい生活様式やSociety5.0などの国家計画などについて吟味するとともに、ヒトという生物がヒトとして生きるために大切なことを選択・抽出し、ときに守り、育みつづけていく使命がある。未生の子ども達のためにも。
≪参考≫
※明和先生のお話はYouTubeで配信していますので是非ご覧ください。https://www.youtube.com/results?search_query=%E5%85%A8%E7%A7%81%E4%BF%9D%E9%80%A3
※政府広報Society5.0も配信しています。興味ある方はご覧ください。