『 はるかな世界に夢を見る 』のお話
理事長 すぎもと かずひさ
視界が広がる向こう。数㎝先の空。手を伸ばす。寝返ると景色が変わる。その面白さ。触りたい。届かない。身体を伸ばす。行ってみたい。憧れ、冒険への欲求。そんな思いが全身に漲り、子どもはその心も体も大きく育んでいくのだろう。仕草、動作、活動の一つ一つが、手や足の指の隅々の、頭の先からつま先の部位の一つ一つが全身へと連なって、さらに全霊の気持ちを宿らせて周りのヒト、モノ、コトと関わり、繋がっていく。その世界、雰囲気に魅了され、この後の未来を期待する。
「子ども劇場」の始まり。登場人物になりたい気持ちを隠して、見つかりたい隠れん坊さながらに様子を窺い、彼の視界に入るか入らないかギリギリのところへ寝転んでみる。ライバルは真横の座布団である。ふんわりとしたフォルム。日差しを浴びて魅惑的に埃をきらめかせている。床面すれすれの上と下、あっちやこっち。肌ざわりの固い、柔らかい、ツルツル、ザラザラ、凹凸の触れる場所ごとの感触を味わい尽くすようにそろりそろりと這ってくる。絨毯が参加する。フローリングが参加する。座布団。そして、私の出番。ワクワクが止まらない。
彼からやってきて「くれた」。何よりのプレゼントである。お腹の上で立ち止まる、否、這い止まっている。撫で撫で、擦り擦り、くすぐったい。彼も気持ちがいいのだ。やめる気配がない。この境界の無さ、一体感、一緒の心地よさ。笑いが漏れる。お腹が揺れる。彼も揺れる。こんなふうに私「と」の関係を結んでくれる。幸せな感じ。時間の有難さ。ほんの数分の時間が彼と私を結んでくれた。
外に出る。子どもの景色が広がっている。園庭のそこかしこに魂が踊っている。自由がある。自由である。自由な活動の背景にはゆったりとした時間がある。思い思いに時間を遣い、活動しては、ヒトやモノを結んで「場」を作りつづける子ども達。生き生きとしている。溌溂としている。没頭している。夢中になっている。主語は子ども達である。
「行動」は「時間」を必要とする。「行動」はバラバラに存在するヒトやモノを結び「場」をつくり、「世界」を広げていく。その「世界」をつくり、広げていくプロセスの中で、子ども達は、新たな自己と出会い、気づきを発見し、仲間と関わり、学びを深めていく。子どもの主体的な活動、主体性を育むために、まず必要な自由を保障すること。空間的・物理的な「場」よりもはるかな世界に夢を見る。