『童心の浜辺』のお話
理事長 すぎもと かずひさ
一年を振り返る。一度目の緊急事態宣言時には、登園自粛のご協力をお願いした。宣言明け、久々の再会。子どものはしゃぎ喜び合う姿は、仲間の存在の大きさを教えてくれた。
そして、二度目の緊急事態宣言。ご存知の通り、前回とは異なり、保育園、こども園だけでなく、すべての学校・園が開かれている。ロックダウン下のイギリスでさえ、小学校以上の休校にもかかわらず、就学前の4歳未満児の施設については子どもの発達を見守る観点から開設されているという。
Withコロナ。市中感染が広がり、感染リスクと向き合いながらも、なお大切に守っていかなければならない「子どもの育ち」がある。
今月は乳児クラスからの保育の集大成ともいうべき「童心のつどい(表現遊び発表会)」を予定している。「童心のつどい」の名の通り、ご家族が一堂に会し、子どもの保育の四季をスライドショーと童謡で綴り、あの時この時を思い出しながら、子どもの成長を共に喜び、それらを支えて来られた親御さん方のご労苦や頑張りを称え合う祝福の日であるが、今年はままならない。
されど、子どもの発表は、今年度の子どもならでは、一人一人の子どもならではの表情・仕草・表現・風情が薫る世界に唯一無二の表現遊びの伝統を守り、準備の真っ最中である。子ども自らが遊び楽しんできた内容、子ども自らが「楽しかった」「面白かった」と選択した場面を子どもと保育者が日々の遊びのやり取りを楽しみながら表現遊びに仕立てていく。年長児になると、小道具や台詞、身体表現に至るまですべて子どもの手作りで行う。衣装や言葉など、一人一人の個性が豊か過ぎて、発想が面白過ぎて、笑い転げるほどに尊い。
その尊さは、乳児期から様々な素材に関わり、仲間と共に遊び世界をつくりつづけてきた「体験=遊びの地層」に由来する。各自、各所で始まる一人遊びは、「自分がつくりだす夢中な世界」と「仲間の面白そうな行為へ互いに関わり合う世界」の化合により、いくつもの新たな局面を生みつづける遊びへと展開していく。誰もが主体の相互主体的かつ直感的な関わり合いの中で、子どもは自分という枠を超えて、演じる自覚のない役者さながらに自らの生命を全うし、仲間を受け容れていく。「生命が躍動するひととき」は大人の童心を打つ。拙くも美しくかけがえのないハーモニーは今を生きゆく子どもそのものである。理想の人間像を示す童心の浜辺。