宇治福祉園について

『 子どもごころに満ちた鯉の季節 』のお話

2021.4.30

『 子どもごころに満ちた鯉の季節 』のお話

理事長 すぎもと かずひさ

地面を歩く。空を見る。この地面と空の間でさえ、何と多くの世界が広がっていることだろう。小さい無限に大きい無限。子どもは一人一人の場所で周りの気配を全身で感受しては直感的に行動したり、匂いや視覚などの感覚を味わったり、その状態・状況から湧き起こる欲求や目的に合わせて工夫・試行錯誤などの行為を繰り返す。行為はいつも世界と一体であり、自分と切り離すことはできない。世界と関わりつづける行為のプロセスで、子どもは新たな自己と出会い、新たな世界をつくりながら、自分自身をも発見し、つくりつづけてゆく。

 先日、三室戸・Hana、黄檗、三山木の年長児さんが宇治市植物公園へ「鯉のぼり見学」に出かけた。蒼空を泳ぐ何匹もの鯉のぼりに大はしゃぎの子ども達。公園の方の粋な計らいであろう。子どもが直に戯れることができるように地面すれすれを泳ぐ鯉のぼりもあった。ところが、Aちゃんが突然、芝生の地面に寝転んだ。立位で触れることができる鯉のぼりを前にして、わざわざ見上げる位置に寝転び、眺め、味わい出したのだ。

寝転んだことで視界いっぱいに青空が広がっている。尾ひれを春風に任せて泳ぐ鯉のぼりの真後ろを追いかける風情のAちゃん。「わーっ!!」、手をくるくるさせている。その様子に何人もの子どもが寝転び出した。新たな姿勢を試しては独自の風景を味わってゆく。さらには二人、三人と協力して、新たな世界の創造に躍起である。

 子どもごころの魔法はまだまだつづく。春風にどこまでも心を泳がせた鯉のぼりとの記憶が「オリジナル鯉のぼりづくり」に飛び火してゆく。「元気もりもり」であること。「風と友達」であること。そのためには「ひらひらのひれ」や「風の通り道になる穴」が必要なこと。語り合うほどにイメージ世界はどんどん広がってゆく。このような想像的思考が仲間を伝い、幾人もの子どもの想像的創造の喚起とともに鯉のぼりは成長してゆく。一人一人の遊びが現在に活きて新鮮そのものである。  これまでの体験も活かされてゆく。乳児クラスのときから培ってきたなぐり描きやぬたくり。砂や小石や植物、昆虫などの自然物との親和性。筆やハサミなどの道具の使い方や段ボール、厚紙、画用紙に和紙や布などの素材と土や花、葉、小枝、小石を用いた型どりや擦り出しなどの着色法や染めの方法などなど、充実の遊びの足跡が五月の空を舞ってゆく。子どもごころに満ちた詩情と友情いっぱいの「鯉の季節」。