『 幸せな生き方のモデル 』 のお話
理事長 すぎもと かずひさ
保育の道に入って39年、「いのちを大切にすること」という法人理念に照らして大切にしてきたことがある。それは「乳幼児の福祉を図るという保育の営みを通して、大人たち自身がこれからの人生をいかに生きてゆくべきかを問いつづけ、一回限りの人生を悔いなく生きるための方途を共に学び合うことをあわせ目的とする」という1973年当時の創設者の言葉を現在に編みゆく保育実践への飽くなきこだわりである。
子どもの幸せとは何か。いうまでもなく、一人一人の子どもには、誕生以前からそれぞれに異なる生活背景がある。さらに、その子どもならではのさまざまな特性を持ってこの世に生まれ出る。また、一人一人の存在及び成長の在り様は実に多様であり、その違いの著しいところが乳幼児期の特徴でもある。「子どもを育てるということは親が教育される歴史」と言われるように、親にとっても初めてのことばかりである。ゆえに、不安なこころの拠り所として、その手がかりを求めていくうちに、ときにメジャーで測るような発達観に囚われたり、子ども同士を比較して一喜一憂したりするような生き方に傾斜することもしばしばである。
保育は「子どものしあわせづくり」の営みである。子どもがより良く生きるとは、一人一人=すべての子どもが満面の笑顔で幸せいっぱいに生きてゆく生き方とは、どのような生き方のことであろう。原初の喜びは心地よさである。人間的なぬくもり、柔らかな日差しや薫風に身を任せ、愛情豊かな人間関係を土台に世話をしてもらったり、あやしてもらったりなどを繰り返しているうちに、赤ちゃんの感覚は豊かに働き出し、保育者の声色に体験を重ねて、全身に浸透させてゆく日々である。この、語り掛けはきれい?表情は面白い?この撫で撫では?保育や子育てにおける一つ一つの所作は何と愛情豊かな創造性に満ちていることだろう。日常の芸術性が子ども達へ伝わってゆく。
幼児クラスにもなると「自由で未来に開かれた希望の保育の方法」が花開いてゆく。「到達」や「達成」をゴールや目標にすると、設定した目標の達成に時間を費やし、「未来が閉じる」。そのような仕方から解放するだけで、俄然子ども達は溌溂と自己を発揮し出すのである。みんなのきの保育空間は、子どもの「やりたい気持ち=魂」で溢れている。自由がワクワクの未来を運んでくる。遊びのプロセスで連綿と生起する自己実現への共同に幸せな生き方のモデルがみえる。