『いのちのラヴスケッチ』のお話
理事長 すぎもと かずひさ
手に取った木の葉とのひびき合い。ひびきはひびきんぐ、毛穴からしみ込んでわたしを彩ったかと思えば、空中にも霧散していく世界づくりの王様です。子どもたちは、そんなひびきんぐの名人。草の穂一本、みつめる小石、水たまりのきらめきにも心と身体が動きだし、いつの間にか遊びの世界がひらいていきます。朝起きて思いもしなかったことが、気づいたときにはかけがえのない宝物に。わたしの「みてみて!」がぼくの「おもしろそう!」を誘い、思いがけない世界へとのめり込んでいきます。目的地も道順も決まっていないので、寄り道も道草も、出会いのひとつひとつがごちそうの世界マタギなのです。
そんな日々の暮らしを描き、育てていくのが「いのちのスケッチノート」という保育記録です。子どもたちが遊びや生活、環境との関わりをたっぷり味わい、さまざまなコトをひらいていくと自然につぎの保育が現れてきちゃう。そんななかに、もうひとつ。「いのちのラヴスケッチ」という取り組みが生まれました。誰でも、いつでも、思いつくままに描く気楽なラフスケッチです。「いいことみっけ!」「かわいいなあ」「なんでやろ?」「これ、好きやねん!」。子どものこと、大人のこと、趣味でもなんでも、ふと浮かんだ疑問や遊びの種まで。写真でも、声でも、絵でも、たった一言でも、誰もがわきだしてきた思いを愛でるように吟じ合う世界観です。
じつは、この気楽さこそが、保育の質を豊かにする大きな可能性を秘めています。好きなことに夢中になるとき、人は自分の境界を越えて感受性を働かせ、思いがけないひらめきや表現をわきだたせます。その小さな一滴が誰かの心にひびき、別の誰かの「好き」とまざり、やがて新しい遊びや環境、文化へと育っていきます。まるで森の土の下で菌糸が伸び、つながり合っていくようです。
そこには四つの呼吸が息づいています。光や風、素材が誘う空間の呼吸。一人ひとりの感受と感出がひびき合う人間の呼吸。昨日と今日、そして未来が重なる時間の呼吸。人もモノもコトも互いに変わりながら新しい世界を生みだす共生成の呼吸。
みんなのきは、この豊かな営みを「いのちの保育発酵図」として描きはじめました。散らばる小さな一滴がまざりあいながら呼吸するうちに、誰もが思いがけない出会いをひらきあう奇跡の軌跡の物語。いのちといのちが感応し、生きているものどうしがともに世界をつくりつづけるみんなの「いいことみっけ!」。一人ひとりの好きがひびき、まざり、わきだして、いまも子どもたちの世界がおもしろ美しく発酵しています。